EXHIBITIONS

黒川良一「ANOMALIA」

2024.07.13 - 08.24

Ryoichi Kurokawa Frame of reference 2024 Installation 2/3/4ch square display | 2ch sound 8'00" loop
©︎ Ryoichi Kurokawa Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art and the artist

 Takuro Someya Contemporaty Art で、黒川良一による個展「ANOMALIA」が開催されている。

 本展では、ラテン語・ギリシャ語で規則からの逸脱、予想外の状態、不均一性を意味する、「ANOMALIA」をテーマに、新作《Frame of reference》と《Atom [ mute ]》の2作品が展示。

 光と闇、音と静寂の研ぎ澄まされた緊張のなか、環境から収集したデータが作家の手のうちに展開し、時間を彫塑。複雑なビートパターン、トーン、ノイズの相互作用が、朽ち果てる建造物の点群データや有機的なイメージに絡まりあって聴覚と視覚をシームレスに刻み、観者を圧倒するスケールで迫る。データを分解し再構築する手法は彫刻的であり、セグメントの劇的な反復が突如、闇や静寂に消える抽象的な瞬間は、黒川のオーディオビジュアルにおける真骨頂とされる。

 本展では、こうした規則性からの断絶や逸脱に焦点をあてる。初公開となる新作《Frame of reference》(2024)では、構成モジュールとなる正方形のディスプレイが彫刻的に組み上げられ、空間に配されている。自然風景の色彩データは細かな要素に分解され、ノイズのアルゴリズムによって変則化した映像シーケンスが生成。観者は、形状を異にした連結ディスプレイに囲まれ、イメージの対象が視認できない抽象的なゆらぎの中心に置かれることになるが、12のディスプレイがモジュール間における要素の意図的なズレをあらわにし、差異化の瞬間をフレーミングしていく。

 あわせて展示されるのは、平面作品《Atom [mute]》(2019 / 2024)だ。黒川は《ad/ab Atom》(2017)において、量子テクノロジーを研究する INL(国際イベリアナノテクノロジー研究所)の科学者と協働。量子力学の法則が人間の目で認識できる視覚データに変換され、黒川はさらにそれを分析し加工した映像インスタレーションを制作している。本作はそのときに収集した走査型プローブと電子顕微鏡によるソース画像をもとに、異なる画像データのピクセルがランダムにシフトされるグリッチ画像処理が施されており、意図的な変則性が構図にリズムを与えている。人間の知覚可能性を探究する本作は、デジタル印刷出力の限界に触れながら、1000万分の数ミリから始まる原子の世界に観者を誘う。

 硬質な反復によるデジタル世界に、予測困難な自然界のエントロピーを持ち込もうとする考えは、インダストリアルな鉛や鉄を基調とした初期ミニマリズムに抗して、有機的な素材を取り入れた彫刻家にもたとえられるだろう。自然環境における偶然性を持ち込む黒川のオーディオビジュアルスカルプチャーは、科学的な方法で収集した環境データにデジタル生成を加えながら、光、音、データ、そして量感を建築的なスケールで呼応させることで、聴覚器官の分離以前にさかのぼる感覚を刺激していく。それはまた、自然の息づかいが電子音に変わり、物質世界とヴァーチャルが行き交うことで、技術が情感を深める共感覚的な体験へ向けられている。