EXHIBITIONS

「横尾忠則 寒山百得」展

左から、松嶋雅人(東京国立博物館 学芸研究部調査研究課長)、横尾忠則(現代美術家)

 東京国立博物館 表慶館で「横尾忠則 寒山百得」展が開催される。

 横尾は1936年兵庫県生まれ。56年より神戸新聞社にてグラフィックデザイナーとして活動後、59年に独立した。唐十郎、寺山修司、土方巽といった舞台芸術のポスターなどを数多く手がけ、69年にパリ青年ビエンナーレ展版画部門でグランプリを受賞。72年にはニューヨーク近代美術館で個展を開催するほどの活動を見せるも、80年7月に同館で開催されたピカソ展に衝撃を受け、「画家宣言」を発表する。以降、画家としてニュー・ペインティングととらえられる具象的な作品を制作するようになる。洞窟や滝といった自然風景から、街中の「Y字路」を描いたシリーズ、俳優、ミュージシャンといったスターたちの肖像画まで、多様な作品を手がけることでも知られている。

 本展では、横尾が寒山拾得を独自の解釈で再構築した「寒山拾得」シリーズの完全新作102点を一挙初公開する。このシリーズは、中国、唐の時代に生きた伝説的な2人の詩僧、寒山と拾得をテーマとしたものだ。 寒山と拾得はその奇行ぶりから「風狂」ととらえられ、日本、中国では伝統的な画題となっている。

 3年にわたる制作活動によって生み出されたシリーズ「寒山拾得」 は、まさに画家の自由な精神活動のなかで描き出された。寒山拾得が身にまとうものや、手にするもの、振る舞いが、画家の精神のなかで、 一日一日、広大な宇宙を逍遥していく。時には歴史的な人物と重なり、さらには 現世を生きる人々にも邂逅している。

 このシリーズでは、制作当初から最終作まで、いくつかのモテーフが一連のフェー ズをつくり出し、その対象を変えながら、寒山拾得を表している。横尾は特定のメッ セージを示すことを目的とせず、自らの精神に身を委ねながら、湧き出る形象をキャンバスに定着させている。つまり横尾の描いた寒山拾得を前にした人々は、彼らをみて如何なる想いが心に浮かんだとしても、それすらも自由だと言える。画家活動の最大のシリーズとなる「寒山拾得」は百面相のように、 見る人にさまざまな問いを投げかける展示となっている。