EXHIBITIONS

大山エンリコイサム「Epiphany」

2022.10.15 - 11.12

⼤⼭エンリコイサム FFIGURATI #406 - The Grape Eaters 2022
Artwork ©︎ Enrico Isamu Oyama
Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art

⼤⼭エンリコイサム FFIGURATI #407 - The Vision of St. Bernard 2022
Artwork ©︎ Enrico Isamu Oyama
Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art

⼤⼭エンリコイサム FFIGURATI #92 2014
Artwork © Enrico Isamu Oyama Photo © Jeffery Sturges
Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art

⼤⼭エンリコイサム FFIGURATI #93 2014
Artwork © Enrico Isamu Oyama Photo © Jeffery Sturges
Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art

⼤⼭エンリコイサム FFIGURATI #94 2014
Artwork © Enrico Isamu Oyama Photo © Jeffery Sturges
Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art

大山エンリコイサム FFIGURATI #95 2014
Artwork © Enrico Isamu Oyama Photo © Jeffery Sturges
Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art

大山エンリコイサム FFIGURATI #96 2014
Artwork © Enrico Isamu Oyama Photo © Jeffery Sturges
Courtesy of Takuro Someya Contemporary Art

 Takuro Someya Contemporary Art(TSCA)では4年ぶりとなる、⼤⼭エンリコイサムの個展「Epiphany」が開催される。

 ⼤⼭は現在、ニューヨークと出⾝地である東京を拠点に活動。⼤⼭の代名詞は「クイックターン・ストラクチャー(QTS)」と名付けられたモチーフであり、これはストリートアーティストが名前の造形を通して⾃⾝のアイデンティティを⽰すときのレター(字形)から⽂字を取り除くことで線の運動にまで解体し、それを抽象的なかたちに再構成した作家独⾃の概念だ。

 本展「Epiphany」では、⼤⼭が2012年の渡⽶後まもなくして制作を始めた「Found Object」シリーズの最新作を中⼼に展⽰。ムリーリョ、シャルダン、ジョットといった⻄洋美術史上の芸術家の作品イメージが刷られた版画をベースに、オックスフォードの古道具屋で⼿にしたそれらに、⼤⼭は自らの「クイックターン・ストラクチャー(QTS)」を差し込むことで対話を試みる。

 例えば、17世紀スペインの画家ムリーリョの絵画《葡萄とメロンを⾷べる少年たち》を⽤いた作品では、版画に対し、QTSが閃光のように右上から左下に駆け抜けることで、ふたりの少年のあいだに交わされる視線、表情、しなやかな⾝体が強調され、画⾯に⽣き⽣きとした動きが加わっている。

「Found Object」シリーズはまた、刷られたイメージだけでなく、印刷物というオブジェクトに対する時間的な介在でもあるという。《葡萄とメロンを⾷べる少年たち》は17世紀にスペインで制作されたが、⼤⼭が今回⽤いたのは、19世紀の英国でそのイメージを印刷した版画だ。イメージの有名性に⽐して、オブジェクトそのものは「美術史上の絵画作品を複製した無名の印刷物」といえるが、⼤⼭の仕事は、こうした埋没したオブジェクトに光を当て、現代美術というアクティブな産業構造のなかで新たな美学的、経済的価値をもたらそうとしている。

 さらに⼤⼭は最新作において、QTSの介在を「過去のモーメントとの共振」と表現した。ここでの「モーメント」は、画家が芸術的な「啓⽰(epiphany)」を授かった瞬間を指しており、⼤⼭はQTSの働きかけによって時間を縦断し、そうした芸術史上に点在する創造の起点へと、想像的にアクセスすることを試みている。その結果、⼤⼭の「啓⽰」の所産であるQTSと、歴史的な絵画のイメージが相互に作⽤し、その鋭くも有機的なリズムは、作家の⼿を離れてもなお形⽽上的な運動を続けるかのように受け取られるだろう。

 そして、TSCAは本展覧会より展示スペースを拡張する。新たなスペースで展示されるアンストレッチドキャンバスの5点組作品《FFIGURATI #92 - #96》は、2014年にニューヨークで制作・公開され、今回が日本初公開となる。⼤⼭の代表的な作品シリーズを、深化したコンセプトのもとで紹介する本展に注目してほしい。