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30人が選ぶ2025年の展覧会90:竹崎瑞季(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館キュレーター)

数多く開催された2025年の展覧会のなかから、30人のキュレーターや研究者、批評家らにそれぞれ「取り上げるべき」だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回は丸亀市猪熊弦一郎現代美術館キュレーター・竹崎瑞季のテキストをお届けする。

文=竹崎瑞季

「玉山拓郎:FLOOR」(豊田市美術館)展示風景 撮影=編集部

「開館30周年記念 MOTコレクション 9つのプロフィール 1935→2025」(東京都現代美術館 4月29日〜7月21日、8月2日〜11月24日

「開館30周年記念 MOTコレクション 9つのプロフィール 1935→2025」展示風景 撮影=柳場大

 東京都現代美術館が有する約6,000点のコレクションのなかから300点近くの作品を、戦前1935年から現在までのクロニクル形式で紹介した企画。2025年は国立新美術館と香港M+の協働で「時代のプリズム」展が開催されるなど、日本の現代美術を見つめ直す機運が高まっていたことも印象深かった。本展は、歴史を動かす大きな流れは強調されず、個々の作品が語るものに委ねられているようであり、それゆえ、それぞれの作家が時代のなかで出した応答が無数の星のように浮かび上がっていた。戦後の上野駅地下道を捉えた佐藤昭雄の素描や、杉戸洋がみせる絵画の可能性、風間サチコによる福島の「記録画」、個人と社会の虚実を錯乱するサイモン・フジワラの映像作品をはじめ、展示室に並ぶ優れた作品の数々に心が動いた。

 「大竹伸朗展 網膜」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 8月1日〜11月24日

「大竹伸朗展 網膜」(丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 )展示風景より、中央は大竹伸朗《網膜屋/ 記憶濾過小屋》(2014)

 2013年の「大竹伸朗展 ニューニュー」から10年強を経て、丸亀では2度目の開催となった大竹伸朗展。回顧展形式ではなく、新作または未発表作品を中心とする約300点で構成され、しかも1980年代後半から続く「網膜」シリーズに焦点を当てることで、このアーティストの比類ないエネルギーが時を経た結晶のごとく浮かび上がった。2025年は瀬戸内国際芸術祭も6回目を迎え、瀬戸内エリア8館による「瀬戸芸美術館連携」プロジェクトが始動したことも特筆すべき点である。香川県内では本展のほか、高松市美術館の「石田尚志 絵と窓の間」、香川県立ミュージアムの「小沢剛の讃岐七不思議」展など、各館の熱い企画が並ぶシーズンとなった。

「玉山拓郎:FLOOR」(豊田市美術館 1月18日〜5月18日

「玉山拓郎:FLOOR」(豊田市美術館)展示風景 撮影=編集部

 谷口吉生による豊田市美術館の建築空間を、かつてないほどに大胆に変容させた展覧会。絵画的な関心に基づく空間的アプローチを特徴とするアーティスト、玉山拓郎による挑戦を、谷口建築の均整のとれた美と巨大なスケール感が包み込むという入れ子式の鑑賞体験に目が覚めた。この建築の特長を理解した上でのアーティストの介在が、それぞれの空間の特徴を際立たせる。とりわけ、柔らかく差し込む自然光の移ろいを感じさせる通路や、白く覆われたガラスケースと絨毯の敷かれた展示室の静寂が印象に残った。図らずも2024年末の谷口吉生の逝去直後の開催となった本展。この空間が持つ幅と奥行きとともに、次の世代に受け継がれ、ひらかれていくことの可能性を感じた。

編集部