有識者が選ぶ2023年の展覧会ベスト3:丹原健翔(アーティスト/キュレーター)

数多く開催された2023年の展覧会のなかから、有識者にそれぞれもっとも印象に残った、あるいは重要だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回はアーティスト/キュレーターの丹原健翔のテキストをお届けする。

木村二郎「ReConstruction」展示風景より photo:Keigo Saito
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木村二郎「ReConstruction」(Gallery Trax/12月2日〜12月24日/2024年1月6日〜2月4日)

木村二郎「ReConstruction」展示風景より photo:Keigo Saito

 八ヶ岳の麓にあるGallery Traxは、角田純、五木田智央、髙橋恭司、川内倫子らをはじめ多くの作家とキャリア初期から展示を企画してきたアートギャラリー。93年に木村二郎と三好悦子が廃校の保育所を自ら改装し始まったTraxは、近現代のアートシーンやデザインシーンを振り返るうえでも大きな役割を果たしている。

 本展は、2004年に他界した木村二郎が生前に制作した家具やオブジェ、空間の写真や資料をまとめた本『ReConstruction 木村二郎とギャラリートラックス』(torch press)の刊行と併せて行われた。坂口恭平、エレン・フライスと松下徹(SIDE CORE)による親しみと愛情たくさんの寄稿文や、木村の当時のドローイング資料など、本として読み応えがあるが、木村の最高傑作だと称されるGallery Traxの30年のアーカイブ資料としても意義があり、本を片手に空間がどう変わり、どう残っているかを見比べるのも面白い。木村が制作した椅子を中心に展示しているギャラリーがまた彼の作品であるというこの構造は、言うまでもなくその世界観に説得力や必然性を与える。

 一方で、裏に飾られたこの30年を体現するトラックスのコレクションの作品の数々や建築修理の痕跡など、木村が他界してから20年近くこの場所を守り続けてきた三好や、ここをかつては、あるいは今でも通う、多くの作家たちが残したやさしい跡が敷地内の所々に見られる。そんな愛情の系譜を感じさせる展示空間に、午後の日光が当たり前のように眩しく入り込み木村の作品たちにあたる空気感は、いわゆるホワイトキューブや、キュラトリアルな実践の中では実現し得ない。なお、本展は2024年1月6日〜2月4日で会期を追加、土日のみ12時〜17時で開館している。

「コレクション展1 それは知っている:形が精神になるとき」(金沢21世紀美術館/4月8日〜11月5日)