そして、特徴的なのは、「ウサギとカメ」のウサギがハンモックで休む姿など、「昔話」の一場面に、思わずクスっと笑ってしまうようなアレンジを加え、タペストリーとして表現している点にある。ひとつの場面ですべてがわかるような下絵を清春さんが描いたら、あとは2人で縦糸の隙間から見える下絵を見ながら、布を変えて織り込んでいく。古くなった着物を幅1センチほどに裂いた布を材料に織り込んでいくのだが、間違えてもやり直しなどはできない。慎重に作業していくため、1枚織り上げるのに、半年ほど掛かることもあるのだという。「花咲か爺さん」をテーマにした作品は、縦2m20cmある大作で、これまで20点ほどのタペストリーをつくってきた。
「古くなった着物を材料に制作しているということで、色々な方から譲っていただくことも多いんです。でも最近は収納場所にも困っていますから、お断りさせていただいていますね。いつまで続けていけるかわからないので」。
お話を伺って驚いたのは、アマチュア芸術家同士の多様なコミュニティが生まれているということだ。会場になった場所だけでなく静岡県西部の湖西市でも、川原さんらは定期的に合同展を開催しており、川原さんが帽子や仮面のような立体造形をつくれば、山田さんらも立体の仮面を和紙でつくりあげるなど、互いをライバル視し、切磋琢磨している様子を窺うことができた。決してアクセスが良いとは言えない会場には、連日コンスタントに多くの来場者が訪れており、山田さんらによると、こうしたネットワークを築くために、自分たちも積極的に他の人の展覧会に足を運んでいるのだという。

近年、美術の世界ではアーティスト・コレクティブが注目を集めているが、当然のことながら、アマチュアの高齢者たちの間にもこうした動きは昔から存在しているわけだ。とくに僕を含めて会社勤めをする人たちにとっては、定年後の人生をどう過ごしていくのかという点において、残りの人生を楽しく愉快に過ごすためのヒントが、こうしたアマチュアのコレクティブにはあるような気がしてならない。あらゆる制約や規範から逃れた表現の極地こそ、アマチュアリズムの真骨頂なのだから。