金澤韻連載「中国現代美術館のいま」:壮大なスケールでつくられた館とその難しさ──上海浦東美術館

経済発展を背景に、中国では毎年新しい美術館・博物館が続々と開館し、ある種珍異な光景を見せている。本連載では、そんな中国の美術館生態系の実態を上海在住のキュレーター・金澤韻が案内。第7回は、2021年に開館した「上海浦東美術館(MAP)」をお届けする。

文=金澤韻

上海浦東美術館の外観 画像提供=上海浦東美術館
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 ふたつの球体を貫いて伸び上がる東方明珠電視塔は、私たちに少し懐かしい「未来」の印象を抱かせる。この塔は1990年代、改革開放路線のもと国の決定により「国家級新区」となった上海浦東(プードン)のシンボルである。1990年に着工し、94年に完成した。467.9メートルの高さを誇り、600メートルの広州タワーに抜かれる2009年まではアジアで一番高い建造物だった。

 高度な自治を取得した浦東は、その後海外企業を誘致し、その結果、国内外の金融とハイテク企業が集中、上海の発展がまさに目で見てわかるような変化を遂げることになる。電視塔のすぐ横で繰り広げられた高層ビルの背比べもこの経済成長時代を如実に物語る。492メートルで世界一を狙った上海環球金融中心(上海森ビル)が2008年に開業。そして16年には上海中心が632メートルの高さをもって登場し、一時的に世界一となった。ドバイのブルジュ・ハリファ(828メートル)にトップの座を譲り、クアラ・ルンプールのムルデカ118(678メートル)に抜かれたいまもなお、この上海中心は世界で3番目に高いビルであり、上海中心、420メートルの金茂タワー、上海環球金融中心の3本の高層ビル、そして電視塔が立ち並ぶ様子は、アジアの経済的な繁栄を象徴する光景となった。

上海浦東の様子 画像提供=上海浦東美術館

ガラスが印象的なジャン・ヌーヴェル設計の建築