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アートと気候危機のいま vol.7「気候危機とアートのシンポジウム アートセクターはどのようにアクションを起こせるか」レポート(前編)【3/4ページ】

まず行うべきは「再生可能エネルギーの利用」

 では、何からはじめればいいのか。ずばり「再生可能エネルギーの利用を増やすこと」だという。

 ここで注目したい国として、オーストラリアが挙げられる。鉄鉱石や石炭の産出国として知られ、化石燃料に頼ってきた同国は、いまでは先進的な試みを進めている代表国として知られている。いっぽうで、日本政府の再生可能エネルギー利用比率に関する将来目標は、米国、ヨーロッパ、中国、インドよりも低い状態。さらには、2050年時点でも、依然として石炭火力由来のエネルギーを使い続けることになっており、大きな問題だと茅野は指摘。

 価格が高いイメージのある再生可能エネルギーだが、すでに導入や利用にかかるコストも下がっている。EV(電気自動車)についても、2022年の実績値をもとにトータルコストで考えるとガソリン車の10パーセント増程度。また建物の断熱についても、同じくトータルコストでは安価というデータもあるそうだ。

 ここで茅野はデータを振り返りながら、力を込めて、やるべきことの明確さを訴える。

「2050年までにネットゼロを達成しないと、21世紀後半にやってくる気候変動のさらなる荒波には立ち向かえない。一番効果が高いのは、すでに市場に投入されている太陽光や風力で発電された電気や、電気自動車を選ぶこと。やるべきことは明確なんだね」。

 話はここからより具体的に。実際に生活のなかでできることはふたつ。ひとつは「エネルギーの効率化」。必要最小限のエネルギーでまかなうライフスタイルやビジネススタイルへの変革。もうひとつは、「再生可能エネルギー中心の社会への転換」だ。

 長野県内のエネルギー事業者と企業が連携した取り組みとして紹介された具体例が、社屋の屋根にソーラーパネルを設置し、その電気を中心とする再生可能エネルギー100パーセント電力でEVに充電を行うゼロエミッションタクシー。また、自宅の屋根ソーラーパネルで発電した電力の余剰分を、行政施設や勤め先企業の事業所に供給するという事例も。再生可能エネルギーの発電施設の建設自体が環境破壊につながる、と懸念されるケースもあるため「顔の見える電力」の調達も重要視されているようだ。

 最後に、アーティストには二酸化炭素排出量の見える化と、生活者としての実践を。美術館やギャラリーに対しては、まずは温暖化対策自体が社会的使命であることを認識し、再生可能エネルギーの調達と運輸部門の二酸化炭素排出量削減を深めていってほしいと茅野は講演を結んだ。

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