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アートと気候危機のいま vol.7「気候危機とアートのシンポジウム アートセクターはどのようにアクションを起こせるか」レポート(前編)【4/4ページ】

アートの本質的な役割、世界の気候危機アクションの動向

 続いて、AITの教育事業である「TOTAL ARTS STUDIES(TAS)」プログラムディレクターのロジャー・マクドナルドから「世界のアート界の気候危機アクション 最新の動向」について。ロジャーはアートと気候危機について考える時、ふたつの視点があると語る。まず作品や展示などアートプラクティスの視点。そして、アート産業の視点。

 まず前者の視点から、自宅に飾っている北宋の画家・郭煕(かくき)の《早春図》を紹介。そこに描かれている蒸気や土、重力などが循環する様子を眺めていると「自然とは複雑で純粋ではない」「人間が支配できるようなものではないと感じる」と、鑑賞から得られる感覚を語る。加えて、生前関わりのあったダンサー/振付家であるアンナ・ハルプリンの取り組みを振り返り、アートの役割についてこう述べる。

 「テクノロジーや科学的なソリューションと並んで、アートは私たちに人間以外の領域との再接続のしかたを提示してくれるもの。土や動物、自然環境との関係をどうやって結び直すか。その知恵やアイディアへ、私たちを導いてくれるのがアートなのだと再確認したい」。

 話題は国際的なアートセクターの試みへ。今年6月にベネチアで、「ACCA(Art Charter for Climate Action)」という新たな連合体が結成。アートと気候危機について活動してきた世界の4団体がさらに連携を強めていくことが発表されたことを受け、各団体を紹介していく。

 ART-2030は、デンマークのコペンハーゲンで主にSDGsとアートをつなぐ活動を長年にわたり行ってきたNGO。CIMAM(国際美術館会議)は、世界の主要美術館からなる組織で、美術館セクターのなかでサステナビリティの実現を考えている団体。

 2007年にイギリスで誕生したJulie’s Bicycleは、このなかでもっとも先駆的で、音楽やビジュアルアーツの業界で政府や行政の政策コンサルティングなどの業務を担ってきた組織。そしてAITも所属する、コマーシャルギャラリーの連合として始まり全世界1500ほどのメンバーからなるGCC(ギャラリー気候連合)がある。

 ここで、ロジャーからサプライズ的なお知らせとして、シンポジウム当日の7月27日に「Art Climate Collective Japan(ACCJ)」という新しいウェブサイトがローンチされたことが伝えられ、会場がざわついた。このウェブサイトでは、気候危機とそれにまつわるアクションについての無料ツールや有用なリソースの配布、世界のアートと気候に関するニュースを翻訳して届けていくとのこと。

 またローンチ時のメインコンテンツとして、GCCが2023年に英語で発表した『脱炭素に向けたギャラリーとアートセクターのためのアクションプラン』(全62ページ/英語)の日本語版を無料公開。周囲には、さっそくスマートフォンでウェブサイトにアクセスしようという来場者の姿も見えた。

 終盤には、茅野とロジャーのショートディスカッションも。「IPCCに詩人や哲学者など、科学的専門知とは別のアプローチで社会と関わるプレイヤーがい てもいいと思う」と言うロジャーに対して、同意を示しながら「サイエンスとよく対比されるのがアート。サイエンスサイドの人もアートのことを考えるべきだし、逆も然り」と答える茅野。

 「サイエンスとアートは不可分でもある。アートセクターの人たちが、先陣を切ってこうして立ち上がろうとしているのはとても頼もしいね」と茅野が語ったところで、シンポジウム前半が終了した。

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