2020.12.21

岡本太郎が後続世代に向けて寄稿したテキスト。岡本太郎「何のために絵を描くか」

雑誌『美術手帖』の貴重なバックナンバー記事を公開。12月公開分は「巨匠アーティストのことば」をテーマに、世界的に活躍する作家たちの歴代のインタビューや寄稿を一挙に振り返る。本記事では、1957年5月号「美術家を志望する人のために」特集より、岡本太郎が後続世代に向けて寄稿したテキストを掲載する。

文=岡本太郎

 2021年に生誕110周年を迎える岡本太郎(1911〜96)。マンガ家の岡本一平、歌人・小説家の岡本かの子のもと、神奈川県に生まれ育った岡本は、東京美術学校退学後に両親とともにフランスにわたり、パリ大学で哲学、心理学、民俗学などを学びながら、作家活動を開始した。パリの芸術運動にも参加するが、第2次世界大戦の激化により40年に帰国、出征。戦後47年に二科会の会員となり、画家として活動を再開する。

 その後50年代には『今日の芸術』などの著作も発表、文筆家としても本格的に活動するように。この時期には、48年に創刊した『美術手帖』にも多数寄稿している。本記事ではそのなかから、「美術家を志望する人のために」特集への寄稿を掲載。

 この特集は「絵画」「彫刻」「建築」「デザイン」「美学」「美術史」「美術評論」の分野ごとに、佐藤忠良(彫刻)、原弘(デザイン)らが若い世代にメッセージを寄せたもの。岡本は「封建時代の芸道修行」を離れて哲学的・論理的な思考のもとに作品を制作するべきだと説き、いまなお色あせないアーティストたちへのメッセージをつづっている。

何のために絵を描くか

 絵画が純粋な感動だけで描かれた時代。職業化して、大工さんや左官屋、家具屋さん等と同じように、職人として仕事した時代。それから再び芸術を意識して、そういう実用的な面から離れた時代。いろいろあります。

 しかしやがて生活の実際から離れることによって絵画はアカデミックになり、逆に新職業の域を作り上げた。今日一般に通用している絵画の考え方はこの段階にあるのです。