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アートの実践の場としての古本屋。「コ本や」主宰・青柳菜摘インタビュー

2016年6月より活動するプラクティショナーコレクティヴ「コ本や honkbooks」。青柳菜摘(アーティスト)が主宰し、映像や書籍の制作、展覧会やイベントを企画するメディアプロダクションとして活動、拠点としてブックショップ兼オープン・スペースを運営してきた。同拠点が神楽坂に2回目の移転をするにあたって、主宰である青柳に、これまでの歩みや今後の展望について聞いた。

聞き手・構成=安原真広(ウェブ版「美術手帖」編集部)

池袋時代の「コ本や」店内にて、青柳菜摘 撮影=畠山直哉

──プラクティショナーコレクティブを名乗る「コ本や」について、改めて主宰である青柳さんから説明いただければと思います。

 コ本やは名前からわかるように「本屋」としての一面が強く見えますが、古本屋としての側面を持ちつつ、芸術の中でも気軽に発表できる場が少ない形態の作品、たとえば映像やパフォーマンスなどに触れられる場を立ち上げたいということをきっかけに始まりました。私は東京都北区の出身なのですが、王子駅は交通アクセスはすごくいいのに、そういった芸術に触れられる施設が少なく、ギャラリーなども少ないと感じていました。そこで何か突発的にイベントを立ち上げたらどうなるのだろうか、という興味が発端になっています。

 当時、東京藝術大学大学院の映像研究科に在籍していたので、そこで周囲の人に声をかけて実現するための方法を考え始めました。作品発表の場がない場所でイベントを立ち上げるためには、まず人を呼び込んで興味をもってもらう仕組みが必要ですよね。場所も必要です。芸術にもともと関心がある人や親しい人だけが来る場所ではなく、なんとなくふらっと入ってしまうような街に馴染む場所のつくり方を色々と考えたんです。シアターやカフェ、イベントスペースなどのアイデアが生まれるなかで、古本屋がひとつの回答として浮かんできました。

王子時代の「コ本や」の外観

──古本屋を始めるにはそれなりの知識が必要になると思いますが、そこのハードルは高くなかったのでしょうか。

 本好きが多いメンバーだったのもあり、古本屋を訪れることが多く、自分の店舗を始めたばかりの店主と知り合って話を聞く機会もありました。本について、古本屋について、立ち上げ方について調べていくうちに、流通の面白さや、あらゆるジャンルが網羅的にある本という媒体を扱うことに惹かれていったこともあり、なんとか自分たちでがんばって始めてみようという結論にたどり着いたんです。

──そうして2016年に、王子で「コ本や」が始まったわけですね。

 はい。王子のスペースはとても小さくて、本だけでスペースがほとんど埋まってしまうくらいでした。でもその分、棚のあいだなどで本と同居できる作品を考えたり、必然的に本や書棚といったモチーフに応答しながら作品を制作したり展示するといったことができて、それも面白かったんです。もちろん、「何かハプニングが起こり続ける場所」というオープン・スペースとしての側面も大事にしていて、メンバーや訪れるお客さんたちと「ここで何が起きたらおもしろいんだろう」とつねに話し合っていました。

 例えば、コ本やがアーティスト・コレクティブのオル太と続けている共同企画《Daily drawing, Daily page》は、王子での開店当初に生まれたものです。参加者が順番に本を朗読し、その声や言葉を手がかりにドローイングを描くという参加型のドローイング・パフォーマンスですが、これも確か最初は「本がたくさんあるし、ここで本を読みながらドローイングをするのはどうだろう」という案から始まったものでした。ギャラリーのように展示期間があって、それが終われば作品が完全に入れ替わってしまうような場所ではなく、いくつも企画が動いていて、つねに流動的に変わっていく場所を目指したんです。お店をまわしながら企画を立てていくことで、関わってくれるメンバーも増えていきました。コ本やでは店舗、スペース、映像制作、出版など活動も多岐にわたるので、その都度関わる人も変わっていきます。

王子時代の「コ本や」の内観

──「コ本や」は2019年に池袋に移転します。面積は大幅に広くなり、教室ほどのスペースも併設していて様々なイベントが開催できるようになりました。

 王子でコ本やを立ち上げたときは、大体3年くらいをひと区切りに考え直そうとは思っていました。常連さんも増えて、定着してきたこの場所でもっと長く続けるかどうかメンバー間でも話し合ったのですが、関わってくれるアーティストが増えてきたところで、王子で築き上げた土台をもとにもっと広い場所を、別の地域でも探してみようということになりました。アートが少ない街にアートの場をつくるという方向性からもう少し広げて、本屋を続けながら、色々な人が混ざる場所を目指しました。

池袋時代の「コ本や」の内観 撮影=戸石あき

──移転先となった池袋の西口側も、演劇のイメージは強いですがアートがあまりない場所という点では王子と似た環境だったともいえますよね。かなり自由度の高い空間でやれることも多くなったのではないでしょうか。

 空間としては可能性がかなり広がりました。ただ、再オープンしたのが2019年の11月で、そのあとすぐにコロナ禍に入ってしまいました。いままでの営業形態とは大きく変わることになってしまったんです。新しい方法を見いださないと持ちこたえられない状態ではあったのですが、それが逆にいままでとは違う客層を呼び込むことができたとも思います。

  「2 KEYWORDS 古書パック」という企画もそのときに生まれたものです。ネットショップから購入してもらう形でお客さんにふたつのキーワードを教えてもらい、それをもとに「コ本や」のメンバーが選書するという企画で、お店に来ずともオンラインで楽しめる企画でした。また、オンラインで毎日朗読を配信する佐藤朋子​​さんとの共同企画「往復朗読」​​も同じ時期に始めたものです。

 このように、コロナ禍ではありましたが本屋の外側にどんどん広げていくことができたのが、池袋移転後の良かったことだと思っています。

池袋時代の「コ本や」の内観 撮影=戸石あき

──そして今年から来年にかけて「コ本や」は新たに神楽坂へと移転することになりました。

 池袋では5年、10年と長く続けることを前提に覚悟を決めて移転したのですが、やむを得ない事情で場所が使えなくなり、そうであればと無理を承知で別の場所への更なる移転をすることにしました。移転を決断できたのも、池袋に移転してみて、より場所性を意識するようになったことも大きいです。本屋としてもスペースとしても、訪れる人が王子と池袋ではかなり違う。だからまた違うエリアで再始動することでコ本やとしても展開できると考え、神楽坂に移転することになりました。

 新店舗はまた造りが大きく変わって、教室くらいの大きさに本棚とオープン・スペースが同居する形態になります。王子時代のような、本と作品が共存するかたちにもう一度近づいて、新しいことを仕掛けていこうと考えています。

lemnaによる神楽坂「コ本や」イメージスケッチ

──本の選書はどのようにやられているのでしょうか

 古書組合に加盟しているので市場から入荷したりもするのですが、個人からの直接買い取りが多くあります。お客さんが増えると、その知り合いがまたつながったりして、本を売ってくれる方も増えてきました。そして買い取った本の中から店頭で扱う本を選んでいくのですが、買い取りで集まってくる本って人柄が見えるし、その人柄が本屋を充実させていくので魅力的ですね。

──新天地に移って、新たにやろうとしていることなどはありますか?

 池袋はとにかくスペースが広く、本屋と展示スペースがしっかりと区分けされていたので、 本屋のことを考える、スペースのことを考える、イベントのことを考えるなど、どうしてもバラバラになってしまって、なかなか均一に注力できなかったんです。なので、今後は関わってくれる人をもう少し増やして、本屋とオープン・スペースが混ざり合う面白い使い方を実験していけたらと思います。

池袋時代の「コ本や」の内観 撮影=戸石あき

──コ本やの活動は、青柳さんの個人の活動に何か影響を与えたりはしているのでしょうか。

 様々な人が関わる場を運営することと、私個人がつくり上げる作品というのはやはり考え方がまったく違うので、とくにどちらもつながりを意識しているわけではないのですが、本に囲まれているので本というメディアについて考えたり、流通について考えたり、知識を吸収できるという部分は大きいですね。また、お店に立って接客をする中で、買い取りで持ち込まれた本からその人の物語を想像したり、本をきれいにクリーニングして棚に並べるときの手触りや、お客さんとの対話から自分のなかに蓄積していくものは多いと思います。作品においても、そうした関連性が読み取れるのかもしれません。

──「コ本や」は7年目を迎えようとしていますが、複数のメンバーと長くプロジェクトを続けていくうえで大切にしていることを教えていただければと思います。

 複数の人が集まって何かをやるとき、それぞれに「こうしたい」という展望があるのですが、必ずしもひとつの展望を叶えるために結束するだけではないなと思います。お互いが全然違う考えを持っていることで、思ってもみない結果が出ることもあります。可能性を排除するのではなく、増やしていくことで、自然とその場に合うものができあがっていくように感じています。そして、新しいことをやる余地が生まれてくる。

──まさに「コ本や」が名乗っているように、プラクティショナー・コレクティヴなわけですね。

 実践を続けるのは、つねに変わり続けなきゃいけないんだと思うんですよね。変わることが長く続けるための理由になる、長く続けることで変わっていけると思っています。

編集部

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