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2024.6.8

小田原のどかの『モニュメント原論』から、原田裕規の『とるにたらない美術』、布施琳太郎の『ラブレターの書き方』まで。『美術手帖』2024年4月号ブックリスト

新着のアート本を紹介する『美術手帖』のBOOKコーナー。2024年4月号では、小田原のどか『モニュメント原論 思想的課題としての彫刻』から、原田裕規『とるにたらない美術 ラッセン、心霊写真、レンダリング・ポルノ』、布施琳太郎『ラブレターの書き方』まで、注目の8冊をお届けする。

文=中島水緒(美術批評)+青木識至(美術史学)

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今、絵画について考える

 研究者、美術批評家らの絵画論を集めた美術史論集。各論は19世紀後半~20世紀前半の西洋絵画を題材とする。近代は絵画という媒体の特性に目を向けて数々の造形原理を発明した時代だったが、本書に収められた論考も時代や様式の節目に目を向けたものが多い。なかでも、全方位性という概念からマレーヴィチ、リシツキー、モンドリアンを再考する抽象絵画論(沢山遼)、点描技法に死生観を見出すジョルジュ・スーラ+ダミアン・ハースト論(加藤有希子)などに斬新な論点がある。(中島)

長屋光枝+杉本渚+大島徹也+沢山遼+亀田晃輔+加藤有希子+小野寺奈津+平倉圭=著
国立新美術館=編
水声社 2800円+税

関係性の美学

 言及の機会は多いにもかかわらず、これまで間接的な紹介にとどまっていた伝説の理論書がついに邦訳。リレーショナル・アートに代表される、観客の能動的な参加や主体間の関係に重きを置く芸術形式を美学的・社会的見地から考察する。マルクスやドゥルーズ=ガタリを経由した「主体性」なる概念の再検討、「共存」をキーワードとするフェリックス・ゴンザレス=トレス論など、理論レベルの考察と実作に即した分析がキュレーターらしい案配で並ぶ。1990年代以降に興隆した美術の一傾向を読むための必須文献。(中島)

ニコラ・ブリオー=著、辻憲行=訳
水声社 3200円+税

とるにたらない美術 ラッセン、心霊写真、レンダリング・ポルノ

 くだらないと思っているのに、なぜだか気になってしまうものたち。本書が扱うのは、その得体の知れないつややかな魅力である。それこそが、今日の「美術」における「盲点」だと、著者は言って憚らない。ラッセンはじめ、歴史から「黙殺」されてきたものたちを語り始めることで、本書は「『美術』の自画像」を描こうと試みる。断片的な各テクストは、執筆と並行して制作された過去のアートワークとともに再構成され、その総体は、美術作家として「とるにたらないもの」を見つめてきた著者自身の鮮烈な「自分語り」としても意義深い。(青木)

原田裕規=著
ケンエレブックス 2600円+税

モニュメント原論 思想的課題としての彫刻

 2017~22年に各種媒体で発表された論考・展評を網羅した評論集。平和祈念像をはじめとする長崎の彫像群、水俣病の死者を慰霊する水俣メモリアル、爆心地に建てられた矢形標柱などをリサーチし、モニュメントがはらむ政治的・社会的問題を忖度なく批評する。長短いずれのテキストでも政治にまつわる主張はブレがなく明快、彫刻の負の歴史を見つめる姿勢が一貫している。彫刻家にして評論家という書き手の主体性を相対化するような視点があれば、論の深みがさらに増すのではないか。(中島)

小田原のどか=著
青土社 4200円+税

ラブレターの書き方

 接続が断絶を生み、断絶が接続を生む世界で、私たちが拠って立つための「足場」はいかに可能となるのか。著者の問いかけは、炎上と拡散によって「自由」を手放してきた「あなた」と「私」が抱える日々のもどかしさに寄り添う。最小単位の共同体である2人の関係から世界と対峙する、ラディカルな行為としての「ラブレター」。現代生活の「新しい孤独」を論じてきた著者による本書は、分断された世界の困難と向き合うための実践書であり、そこには世界の「再制作」に不可欠な「書くこと」の自由に対する静かな期待が込められている。(青木)

布施琳太郎=著
晶文社 2000円+税

声の地層 災禍と痛みを語ること

 ためらいながらも声を発する。迷いながらも耳を澄ます。自らの「語れなさ」に苦心する者たち同士が、ふとつながる瞬間の「ひっかかり」。その摩擦から生じる火花は「当事者性」という隔たりを超え、かすかに私たちの足元を照らす。生活に蔓延する不安のなかで、ひとりの聴き手として現場に居合わせた著者が取り組むのは、「語り継ぎ」の実践である。聴取された無数の語りから生まれる詩的な「物語」と、語りに対する著者の気づきを記した「あとがたり」によって形成される本書の「地層」は、「語らいの場」に温かく柔らかな土台を与えるだろう。(青木)

瀬尾夏美=著
生きのびるブックス 2100円+税

頭のうえを何かが Ones Passed Over Head

 著者は2021年10月末の深夜に脳梗塞で倒れ、右半身麻痺となってしまう。それから1ヶ月後、リハビリに励むなか家人に差し入れられたのは、リラのいちばん太い色鉛筆。退院までの4ヶ月間に麻痺した右手で描いた40作余りが、ぱくきょんみのコメントとともに時系列に並ぶ。「ストローク(脳梗塞)は僕にとって恩寵でした」と語る岡﨑の、二度と描かれない「恢復期の絵画」のかたち。(編集部)

岡﨑乾二郎=著
ナナロク社 2300円+税

だれか、来る

 2003年にノーベル賞を受賞した劇作家・小説家ヨン・フォッセ。初の邦訳書は初期の代表的戯曲とエッセイ「魚大きな目」を収録。ノルウェー西海岸のフィヨルドの厳し自然と静寂のなか、西海岸の書き言葉「ニーノルシュク」で人間の現存在に迫る。フォッセの友人でもあり、長年小誌に欧州アートシーンのいまを寄稿してくれた河合純枝による解説も必読。(編集部)

ヨン・フォッセ=著、河合純枝=訳
白水社 2300円+税

 (『美術手帖』2024年4月号、「BOOK」より)