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地域レビュー(関東):柴山陽生評「アーティストとひらく 戸田沙也加展 沈黙と花」、「Collecting a Sky ―風景を渡る糸―」【2/2ページ】

ばらばらな作品/つながっている作品

「Collecting a Sky ―風景を渡る糸―」(川口市立アートギャラリー・アトリア)

 主催者による「ごあいさつ」文によると、「Collecting a Sky ―風景を渡る糸―」展(川口市立アートギャラリー・アトリア)の主題は、テキスタイル作家の小林万里子とアンドレア・マイヤーズによる「日米共同制作のアートプロジェクトを紹介する」ことにある(2025年8月現在、2人の共作《予兆─沈黙の春を超えて─》は、2025年大阪・関西万博米国パビリオンVIPエリア内に展示されており、その作品が制作された地こそが、埼玉県川口市芝地区のアートスタジオだという)。

 しかし実際の展覧会は、直接的にその主題を扱っている壁の一面をのぞき、2人の作家の単独作によって構成されている。以下では、それらの作品について、両者の作品の差異に着目して書く。

 2人のもっとも明らかな違いは、マイヤーズ自身が(《Micro Seasons》(2025)についてのキャプションで)述べているように、小林の作品が「象徴的」「寓意的」であるのに対し、マイヤーズの作品は「抽象的」だということにある。そのような両者の作品の特徴は、具象的/抽象的という古典的な二項対立に対応する。

アンドレア・マイヤーズ On Yellow, On Red, On Blue 2024 ファブリックコラージュに機械縫い 147.4×147.4cm
提供=川口市立アートギャラリー・アトリア

 しかし、実際には一面的/多面的という対比こそが重要だと思われる。マイヤーズの作品は多面的である。というのも、それらは、色の組み合わせによって、そして素材そのものの物質的な重ね合わせによって、いわば作品平面に凹凸が生まれるように、それがひと続きのものにならないようにデザインされているからだ。

展示風景より、《On Yellow, On Red, On Blue》(部分)

 そのような特徴は、具象的イメージを用いた作品である《Micro Seasons》においても、変わらず存在している。その作品は72点の2枚組からなるが、それら72点は、隣りあうイメージ同士と直接的な意味のつながりを持たないだけでなく、物質的にも(144枚すべてが)あくまで並置されているにすぎないのだ。その作品はばらばらであり、多面的である。

アンドレア・マイヤーズ Micro Seasons 2025 ファブリックコラージュに機械縫い、手縫い 365.8×365.8cm
提供=川口市立アートギャラリー・アトリア

 他方で、小林の作品は一面的である。それらの作品は多様な要素、生物、あるいは存在を含むが、すべてがつながっており、同じ平面上に存在している。《明日へ変わる》(2014)では、人間、動物、植物、人工物など、ありとあらゆる存在が、まるでひと続きであるように感じられる。このほとんど神話的なイメージは、テキスタイルの「つなぐ」力を確証していると言えるかもしれない(*3)。

小林万里子 明日へ変わる 2014 和紙に綿、麻、ウール 300×400cm
画像提供=川口市立アートギャラリー・アトリア

 さらに、《所有され得ぬ者たち》(2024)においては、枝そのものがイメージとつなげられている。そのイメージのなかには枝のイメージも含まれているが、それらの現実物と表象とを区別することはむずかしい(実際には裏側から見ると、はっきりと区別できるが)。

小林万里子 所有され得ぬ者たち 2024 オーガンジー、綿、ウール、興禅寺の枝 250×250cm 画像提供=川口市立アートギャラリー・アトリア
《所有され得ぬ者たち》(部分) 撮影=筆者

 そして、距離を取って観ると、わたしは作品とギャラリーの外の並木元町公園に立つ木との──とくに形態と高さにおける──類似性に気づく。まるで、その作品は環境そのものとさえつながっているかのようだ。

 しかし、ほんとうにそれらはつながっているのだろうか。ただ、わたしが誤認してしまったにすぎないのだろうか。では、いかなる基準において、いっぽうで作品内のつながりは正しく、他方でわたしが知覚した作品と環境のつながりは誤りであると言えるのだろうか。この世界において、なにがなにと、どのようにつながっているのだろうか。

*3──展覧会に掲示された小林自身の文章がこのことを示唆しているが、加えて、わたしが作品鑑賞中に以下の著作の内容を想起したということを明記しておきたい。Donna J. Haraway, Staying with the Trouble: Making Kin in the Chthulucene, Duke University Press, 2016.

編集部