REVIEW - 2019.12.25

廃れた流行の新たな着地点。小野寺奈津評 PUGMENT 2020SS「Purple Plant」

大谷将弘と今福華凜によるファッションレーベル「PUGMENT」が、2020年春夏コレクション「Purple Plant」を発表。東京都現代美術館の企画展「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」で、本コレクションのインスタレーション展示のほか、一夜限りのファッションショーも行った。戦後の占領下で言葉が失われた世界を舞台に、Tシャツの文字から歴史を復元しようと試みた本コレクションは、短命な流行を繰り返す現代のファッションシーンにどう作用するだろうか? 国立新美術館特定研究員の小野寺奈津がレビューする。

文=小野寺奈津

「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」(東京都現代美術館、2019)ショーの様子 Photo by Aiko Koike
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Tシャツから紐解く日本の戦後ファッション史

 服にまつわる記憶を持つ亡霊の言葉が、PUGMENTのインスタレーション「Purple Plant」のなかでこだましている。会場内のTシャツ工場でプリントされているテキストは、様々な時代のファッションについて語るものであり、それはまるで現在は廃れてしまった流行の亡霊が話す言葉を写し取っているかのようだ。

 PUGMENTが東京都現代美術館のグループ展「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」の展示室内で発表した新作コレクションは、戦後から現在までファッションを牽引してきた街、原宿を中心として発展した日本のファッション史に焦点を絞ったものだった。原宿界隈がファッションの発信地として知られるようになった理由としては、戦後GHQ(連合国軍総司令部)が置かれたこのエリアに駐在していた米兵およびその関係者との交流を通じて日本人の洋装化が進み、また外来文化に広く触れたことが背景としてある。原宿界隈には、当時から現在まで続いている土産物屋オリエンタルバザーや、高級食材を扱うスーパー紀ノ国屋、輸入物の玩具を初めて扱ったキデイランド、のちに流行のファッションテナントが入るようになるセントラルアパートがあるが、それらは当初ワシントンハイツで暮らすアメリカ軍のためにつくられた建物だった。GHQ撤退後、このエリアには新しいものを好む最先端のデザイナーたちが集うようになり、これまで数えきれないほど多くの流行が生み出されてきた。​

「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」(東京都現代美術館、2019)展示風景 Photo by Kenji Morita

​ 今回のコレクションでPUGMENTは、米兵を経由し日常着として流通するようになった「Tシャツ」を、ストリートファッションを代表するアイテムとしてとくに象徴的に扱っている。彼らは、原型となる様々な年代のTシャツについてリサーチし、解体していった。ショーでは迷彩柄ジャケット、バンダナプリント、大麻柄などアメリカ古着を思わせるアイテムやモチーフが登場しており、そこにはランダムにTシャツから採集された言葉がプリントされている。

 また、本コレクションで使用されている小松千倫による楽曲も同様に、Tシャツから採集した言葉がメロディーの歌詞として組み替えられている。これは本コレクションでPUGMENTが行っている操作と重なる。そのほかにも、現在は明治神宮に植え継がれているが、代々木という地名の由来となった1本の樅の木の写真がプリントされたルックも発表された。この木は空襲を受け焼失しており、PUGMENTはそれによって原宿の街が大きく変わることとなったきっかけを見出した。ショーの冒頭は、樅の木のイメージを膨らませ、クリスマスミサや聖歌のような音楽で始めている。このように、街と各時代のファッションの歴史がコレクションを通じて連想ゲームのように展開されていく。

PUGMENT 2020SS「Purple Plant」 Photo by Shota Kono
PUGMENT 2020SS「Purple Plant」 Photo by Shota Kono

 加えて、このショーでは原宿を代表するブランドのひとつであるMILKや、日本のストリートファッションを世界へと発信し一世を風靡したA BATHING APEやUNDERCOVER、竹下通りで流行した名前バッチなど、各時代に見られる様々なスタイルが解体の対象となっている。PUGMENTは、歴史的出来事や当時のデザインを一度文脈から切り離し、新たにひとつの服として組み合わせる。このように過去のスタイルがランダムに登場するさまは、結果的にファッションにとってつねに切り離すことができない流行という現象が、時代を超え幾度となく繰り返されるものである、ということを想起させる。ファッションにおいてまったく新しいクリエーションやスタイルというものが現れにくくなっている現在、過去のスタイルが再構築されることで、新たな流行が生まれているといっても過言ではない。したがって、PUGMENTは流行の発信地、原宿をリミキシングの対象とすることで、ファッションにおける反復的なシステムや、今後生まれてくる新たなファッションの可能性について言及しているのだ。

 彼らの独自性は、その時代の空気を反映するような流行とは異なり、ファッション全体を見つめる、あるひとつの視点をテーマとして据えることにある。展覧会の会期中、PUGMENTが運営する恵比寿のスペース「People」では展示会が行われ、新作はオンラインで購入することも可能だった。実際彼らが今回発表したコレクションはストリートファッションを土台としており、リアルクローズとして構成されている。したがって、美術館でコレクションを発表する彼らの表現はたんに美的に鑑賞されることを求めていないとわかるだろう。

「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」(東京都現代美術館、2019)ショーの様子 Photo by Aiko Koike
「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」(東京都現代美術館、2019)ショーの様子 Photo by Aiko Koike

 私たちは長らく和装の歴史を持ってきたが、現在は当たり前のように洋装で生活している。しかしこの洋服は、戦後急速に私たちの生活に浸透したものだ。現在、巷にあふれる服を解体していけば、そのすべてにデザインのルーツなど様々な背景がある。例えば迷彩柄ジャケットや軍物のアイテムなどは、本来であれば戦争を直接的に想起させるものだが、いまや日常着として定着している。PUGMENTのこのようなリミキシングの試みは、日常的に身に着けている服が、じつは様々な文脈を孕んだ状態で、いまここに存在しているのだということを顕在化させる。また、私たちがPUGMENTの服を着用して日常に溶け込むことは、時代に流れる流行という現象やファッションの流通システムに客観的に向き合うことにもつながるのだ。

 ショーでは、おばけのようにビッグシルエット化したTシャツに大量の言葉がプリントされたルックがフィナーレを飾った。「流行は繰り返す」。すでに幾度となく反復されてきたこのフレーズが、あの空間にこだましながら、PUGMENTによって呼び出されたファッションの亡霊は新たに着地する服を探しているかのようだった。