近代建築の巨匠、フランク・ロイド・ライト(1867〜1959)の日本では四半世紀ぶりとなる回顧展「帝国ホテル二代目本館100周年 フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築」が、東京・汐留のパナソニック汐留美術館で開幕した。会期は3月10日まで。
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アメリカの落水荘やグッゲンハイム美術館を設計した、20世紀を代表する建築家のひとりであるライト。帝国ホテル二代目本館をはじめ、日本との関係が深いことでも知られており、熱心な浮世絵のディーラー/コレクターでもあった。本展はライトと日本との関わりを起点に、コロンビア大学エイヴリー建築美術図書館が所蔵する貴重な図面などとともに、その生涯の仕事の全貌に迫るものだ。
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展覧会冒頭の第1章「モダン誕生 シカゴ─東京、浮世絵的世界観」では、ライトが活躍の舞台とした19世紀末から20世紀初頭にかけての東京とシカゴの都市状況や、ライトの初期の仕事、浮世絵に対する興味などが確認できる。
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江戸から近代都市へと変貌する東京、大火から復興するシカゴは、ともに新たな都市計画を構想する舞台となった。シカゴの建築事務所で建築家としてのキャリアをスタートさせたライトは、この時期より浮世絵に魅了され日本も訪れた。会場では建築ドローイングと歌川広重の浮世絵がともに展示されており、ライトのドローイングに浮世絵からの影響があることを感じることができる。
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第2章「『輝ける盾』からの眺望」では、つねに環境との関係性を意識しながら建築を手掛けてきたライトの仕事に焦点を当てる。
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本章では、プライバシー空間をつくるために大規模な植栽を計画を立てたニューヨーク州バッファローのダーウィン・D・ダーウィン邸、タチアオイに着想したモチーフを家の内外に設置したバーンズドール邸「立葵の家」、そして岩から家が飛び出て滝となるかのような「落水荘」ことエドガー・カウフマン邸などを写真、透視図、計画図、模型、家具などとともに紹介。
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第3章「進歩主義教育の環境をつくる」では、ライトの建築が進歩的な教育理論の実践でもあったことを知ることができる。
子供たちに畑作や料理、模型制作といった実践的な体験にもとづく教育を施したヒルサイド・ホームスクールや、演劇や体育、レクリエーションなどのためのスペースを取り入れたクーンリー・プレイハウス幼稚園などがその代表例だ。また、ライトの自宅にはプレイルームが増築され、妻のキャサリン・トビンが、近所の子供たちのためのホームスクールを開いていた。
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ここで特筆すべきなのは、このようなライトの仕事の発注者の多くが女性であったことだ。教育者やフェミニスト、専門家などが、それぞれの理論と実践の場としてライトの建築を所望した。また、ライトのスタジオでシニア・デザイナーを務めたマリオン・マホニーなど、その仕事仲間としても女性が活躍していたという。ライトの仕事の先進性は、建築そのもののみならず、そこにある思想も大いに関係していたことがわかる。
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第4章「交差する世界に建つ帝国ホテル」は、本展の契機となった帝国ホテル二代目本館が取り上げられている。本章では同ホテルの建築や構造を紹介することによって、この建築が日本の宝形屋根やメソアメリカなどの階段型ピラミッドといった、世界の文化の要素を探求してつくられたものであることが示される。
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また、ディナーウェアや椅子、テーブルなど、ホテルを彩った家具の数々も実物を展示。さらに同時代にライトが設計したロジャース・レイシー・ホテルの計画案の比較も興味深い。
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第5章「ミクロ/マクロのダイナミックな振れ幅」では、中空レンガやコンクリートのブロックを組み合わせるブロック・システムについて紹介。また、グッゲンハイム美術館に代表される、らせん状の建築もこの章で扱われる。
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続く第6章「上昇する建築と環境の向上」ではライトが手がけた高層ビル建築について解説。そして第7章「多様な文化との邂逅」では、ライトが同時代にどのように扱われたのか、そしてライトがアメリカ先住民文化やイスラム文化に注いだ視点を知ることができる。
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フランク・ロイド・ライトの著名な建築は多くの人が知るところであり、またそのエッセンスをインスパイアした建築が現在も世界各地で建てられている。しかし、ライトはそれらの建築を手がけるときに、いかなる思想と思考を持って取り組んだのか、私たちは本当に知っているだろうか。本展は潤沢なボリュームで、そのような問いかけに答えて余りあるものとなっている。
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