東京・上野の東京都美術館で上野アーティストプロジェクト2023「いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」が2024年1月8日までの会期をスタートさせた。担当学芸員は大内曜(東京都美術館学芸員)。
同展で展示されるのは、特定のいきものと分かちがたい関係を結び、数十年にわたり高い熱量を持って、その姿を追いかけ続けた(続けている)作家ら6名による作品だ。
様々な場所に生息するキノコを写実的に描く小林路子は、もとは心象風景を描く作家であったという。あらためて写実を追求したいと思い立った際、多様な色や形を持つキノコの姿に一目惚れしたことがきっかけとなり、いまでは小林の作品のメインテーマにもなっている。ここではいままでに描かれた約850点の作品のなかから36点が展示されている。
木象嵌職人として鍛え上げた手技により、日本におけるバードカービング(野鳥彫刻)の世界を切り拓いた内山春雄(1950〜)は、様々な鳥をほぼ実物大で制作する作家だ。会場では、特定の環境からいなくなった鳥を呼び戻すために実際に使われるデコイ用の彫刻も展示されている。
また、内山は長年「タッチカービング」に取り組んでおり、目の不自由な人に向けた鑑賞体験プログラムも提供している。別フロアの会場では、実際にバードカービングを手で触ることができるほか、専用のタッチペンを用いてその鳥の鳴き声も一緒に聞くことができる。普段は触ることが難しい野鳥に関しての学びを、この機会にぜひ深めてみてほしい。
明治末~昭和期の画壇で活躍するかたわらで、少年期から個人的な趣味として植物を愛好し、道端で出会う草花をスケッチして記録していたという辻永(1884〜1974)。生涯約2万点の草花を描き、約4500点が現存する。本展では約60年分のスケッチを通覧するために厳選された97点が紹介されている。
写真家・今井壽惠(1931〜2009)は1962年に交通事故による一時的な失明を経験。その回復後に初めて見た映画『アラビアのロレンス』の影響から、力強さと美しさを兼ね備える馬という存在に関心を抱くようになる。会場には躍動感あふれる馬が、今井の憧憬とも取れる目線を通じてとらえられた作品群が並んでいる。競馬界でも著名な人物だ。
本展最年少の作家でもある冨田美穂(1979〜)は、実物大のウシを木版画として克明に描く作家だ。大学在学中に体験した北海道の酪農場でのアルバイトをきっかけにウシに魅了され、現在では北海道に移住し酪農場で働きながら制作を続けているのだという。
世界各地の動物園やアフリカの野生に暮らすゴリラを迫力とユニークさを持って描くのは作家の阿部知暁(1957〜)だ。当初は心象風景を描く画家であったが、制作に迷いが生じた際に好きであったゴリラを描くようになったという。会場では、ゴリラ研究の第一人者である山極壽一と制作した絵本『ゴリラが胸をたたくわけ』(福音館書店)の原画も展示されるほか、関連イベントではふたりのトークイベントも企画されている。
また、別フロアのギャラリーBで同会期で開催される「動物園にて ―東京都コレクションを中心に」は、「動物園」にフォーカスすることで、上野や上野動物園の歴史、そして人間と動物との向きあい方を改めて見直すものとなる。
全4章構成となる同展では、「第1章 動物を集める・見る」で上野に動物園ができるまでの経緯を紹介。「第2章 『動物園』を描く・写す──明治期〜昭和初期の写生・宣伝美術」では、東京美術学校での絵画学習や当時のグラフィックデザイナーによる仕事を紹介し、動物園に関連する視覚芸術が展示される。「第3章 『動物園』と戦争」では、明治期から昭和期に起こった対外的な戦争が動物園の動物たちにどのような影響を及ぼしたのかを振り返る。「第4章 『動物園』を描く・写す──東京都コレクションを中心に」では、戦前、そして60〜80年代に描かれた「動物園」をテーマとした絵画作品や写真を紹介している。エピローグでは、日本各地の動物園を訪れ、その動物たちを撮影し続けている写真家・酒航太(1973〜)による作品も展示。動物園のなかで一生を過ごす動物たちの姿は、可愛い以外の感情を鑑賞者に抱かせてくれるだろう。
普段は意識したことがない「動物園」にまつわるエピソードを多角的な視点から紐解いていくことができるこちらの展示も、ぜひあわせて足を運んでみてほしい。