アメリカを代表するアーティストであるアレックス・カッツ。現在96歳の画家が望んだ個展が、京都御所にほど近い有斐斎弘道館で幕を開けた。
アレックス・カッツは1927年ニューヨーク・ブルックリン生まれ。家族や友人など、身近な人々をモデルとした平面的な肖像画や風景画で知られ、その作品はニューヨーク近代美術館やメトロポリタン美術館、ホイットニー美術館をはじめ、世界各地の美術館に所蔵。また2022年から23年にかけては、ニューヨークのグッゲンハイム美術館で個展が開催されるなど、その存在は誰もが認めるところだ。しかしながらその世界的な知名度と反して日本での個展は少なく、本展は1991年以来、じつに22年ぶりの開催となる。
本展はアレックス・カッツによる京都での展覧会開催の希望を叶えるかたちで、ニューヨークのグラッドストーンギャラリーとソウルのPIBIギャラリーが主催となって開催されるもの。
会場となるのは有斐斎弘道館。ここは江戸中期の京都を代表する儒者・皆川淇園(1734〜1807)が創設した学問所「弘道館」址に建てられた数寄屋建築の文化施設。かつては円山応挙や伊藤若冲をはじめとする文人たちが集った場所だ。
会場は畳敷きの和室に、通常はカッツの作品を額装するための素材である樫の木を使った什器を設置。その上に作品が並ぶかたちとなった。これは床に座り作品を見ることを想定した展示方法であり、作品の向こう側に広がる庭も同時に視界に入るような構成となっている。
展示作品は新作を中心に21点。木製ボードにオイルで描いた「Study for Spring」シリーズと「Study for Summer」シリーズがその中心だ。生命力あふれる桜や新緑が描かれたこれらの作品は今年の春から夏にかけて描かれたもので、日本で展覧会をしたいというカッツの想いが反映されている。
本展に協力したMAHO KUBOTA GALLERYの久保田真帆は、アレックス・カッツについてこう評する。「アメリカのペインターのなかではインディペンデントな存在であり、ひたすら自分の絵を描いてきた強い作家。非常にインテリジェントで、古今東西のアートに造詣が深い。彼の同時代には様々なスクールがあったが、日常の風景や人々、ライフそのものを描いてきた存在として注目すべき」。
また、有斐斎弘道館で館長を務める濱崎加奈子は、この場所で同展を開催する意義を次のように語る。「有斐斎弘道館は江戸時代には文人が集い、世界に開かれていた場所。アレックス・カッツの作品を通して、世界中の人たちが芸術は人間に必要な学びだと知ってもらえたら」。
日本で見る機会が少ないアレックス・カッツの作品。本展はその一つひとつの作品とじっくり向き合うことができる貴重な機会だ。このために京都を訪れる価値はあるだろう。
なお、会場ではアレックス・カッツの作品をイメージした京菓子と抹茶のセットも数量限定(有料)で提供される。ぜひ作品鑑賞の後には、庭と茶室、そして茶席を堪能してほしい。