現実と非現実のあわいを描きつつも、どこか懐かしさを感じさせる世界観を生み出す画家・野又穫(1955〜)。その東京オペラシティ アートギャラリーの企画展示室では初となる個展「野又 穫 Continuum 想像の語彙」がスタートした。会期は9月24日まで。担当キュレーターは野村しのぶ(東京オペラシティ アートギャラリー キュレーター)。
本展では、同館コレクションをはじめとする野又作品の初期から最新作までを展示。野又の全貌を総覧することができるものだ。
東京藝術大学でデザインを学んだのち、広告代理店のアートディレクターとして勤務しながら絵画制作に励んでいた野又は、1986年に佐賀町エキジビット・スペースでの個展を皮切りに、いくつかの個展を開催。その後、作家活動に専念することとなる。
野又の作品群には、未来感がありつつも郷愁めいた感覚を思い起こさせる謎の建造物が登場する。建造物はあれど人の姿は一切描かれておらず、自然と人工物のみが一体となって存在している。これらの建造物は人間のためにつくられたものではないのかもしれない、そう想像することもできてしまう世界観だ。画面の美しさに反して、どこかディストピアを感じさせるのもこれらの作品の魅力といえるだろう。
本展では、野又作品に登場するような建造物を立体化させたオブジェも展示されている。建築としての機能性を排除した不思議なオブジェは、まるでエッシャーのだまし絵を見ているかのようだ。
野又作品のスケールをより引き出すため、作品を広々と配置する会場構成も効果を発揮している。一番広い展示室では、船の帆や風車、気球といった「空気の流れ」を感じさせる作品群を展覧。これらも正しい機能性を有しているわけではなく、なんのためにの建てられたのか、という想像が掻き立てられるものだ。
とくに野又が大規模な都市開発に着目して描いたという《Babel 2005 都市の肖像》(2005)は迫力あるスケールだ。高さが積み上がっていくビルのような螺旋塔には、人間の果てない欲望が皮肉めいて描かれているのかもしれない。
野又作品は写実的に細かな建造物を描いているように見えるが、近づいてみると、意外と大まかな解像度とタッチで描かれていることに気がつく。それでも立体感や空気感を表現できるのは、的確な描写力があるからこそなせる技だろう。
本展のタイトルにも用いられているのは、最新作「Continuum」シリーズだ。「光景 Skyglow」シリーズを描いた後の2011年に東日本大震災を経験した野又は、圧倒的な自然の力によって崩れ去る建造物を目の当たりにして、しばらくキャンバスに向かうことができなくなったのだという。「Square Drawing」(2011〜15)を経て制作された同シリーズは、野又のなかで様々な要素や出来事が集合、連続することで描かれたものとなっている。
また、野又によるスケッチや制作のための資料が展示されているのも見どころのひとつだ。この謎めいた世界観がどのように生み出されたのか、その裏側を垣間見る糸口となってくれるだろう。