東京ミッドタウン日比谷で、マンガ家・イラストレーターの江口寿史の個展「東京彼女」が開幕した。会期は3月14日~4月23日。
江口は1956年熊本県生まれ。77年に『恐るべき子どもたち』でデビューし、同年の初連載作『すすめ!!パイレーツ』や、81年に連載を開始した『ストップ!!ひばりくん!』はヒット作となった。その後は、少ない線で立体感や質感を表現するポップな画風やデザインセンスを活かし、90年代からはイラストレーションの世界で活躍。CDのジャケットや広告など、幅広い分野の仕事で活躍している。
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そのイラストレーションにおいて、数多くの少女像・女性像を描いてきた江口。2018年4月からは石川県金沢市を皮切りに、個展「彼女」が全国を巡回。また、今年開催された村上隆主宰のKaikai Kiki Galleryでの個展も話題を呼んだ。
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本展は東京ミッドタウン日比谷での展示のために新たに描き下された、日比谷の街にたたずむ「彼女」の新作が披露(3月14日現在は制作中)されるほか、江口が80~90年代に愛用した画材「パントーン・オーバーレイ」による初公開の原画作品も多数展示されている。
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展覧会の冒頭では、00年代以前の江口のイラストレーターとしての仕事を紹介。アメリカン・ポップアートをはじめ、様々な異ジャンルの表現を少年マンガに持ち込んだ江口の手つきが見て取れる。
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とくに、現在においては広く80年代風のイラストを象徴する存在となっている、レトラセット社のカラートーン「パントーン・オーバーレイ」を使った作品群は、当時の時代の空気を体現したものといえるだろう。これらは80年代のイラストを牽引したイラストレーター・鈴木英人への共感の表れでもあるという。
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会場をめぐっていくと、銀杏BOYZ「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」のCDジャケット(2005)や楠見清『ロックの美術館』(シンコーミュージック、2013)の表紙イラスト、『大滝詠一 | A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』のジャケット(2021)など、時代の節目でアイコンになった江口の仕事を見ることができる。
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また『週刊少年ジャンプ』(集英社)での連載作品の扉絵原画や、『週刊ビッグコミックスピリッツ』(小学館)の連載、『Hot-Dog PRESS』(講談社)の表紙など、雑誌の提案から流行の先端が生まれていた時代の作品も会場には並ぶ。当時の文化に思いを馳せながら見ると様々な発見がありそうだ。
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今回の展覧会は、これまで巡回してきた個展「彼女」より規模が縮小されているものの、とくに「東京」という街の文化を敏感に取り入れて再構成された。東京という街について、江口は次のように思いを述べる。「最近の変化が激しい東京の街並みに、気持ちが追いつかない。だから、絵として残しておきたいという思いが強くなっている。人物への興味はもとより、近年は背景への興味も強くなっているのもそのためだ」。
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つねに足を使って歩き、生活者としての自然な視点をもって街を見ることが発想源になると語る江口。その画業を振り返りながら、東京という街のいまと、ひとりの作家としての江口のいまを見ることができる展覧会だ。
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