2021.12.20

困難な時代に立ち向かう「祭」とは。「廣川玉枝 in BEPPU」が別府とオンラインで開幕

今年で6回目の開催となる「in BEPPU」。今回は服飾デザイナーの廣川玉枝を招致し、困難な時代を乗り越えるための「祭」を別府の町とオンラインで開催している。その見どころをレポートで紹介する。

「鉄輪むし湯」前での「地嶽祭神事奉納」の様子
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 国内有数の温泉地、大分・別府に毎年1組のアーティストを招聘し、地域性を活かしたアートプロジェクトを展開する個展形式の芸術祭「in BEPPU」。6回目を迎える本年は、服飾デザイナーの廣川玉枝を招聘し、別府市内でパフォーマンスを実施するとともに、映像作品を発表した。

廣川玉枝(左)と「in BEPPU」総合プロデューサーの山出淳也

 今回の「in BEPPU」で廣川が着目したのは、別府のエネルギーの象徴であり、豊かな資源でもある「地嶽」だ。温泉地として広く知られる別府では、高温の蒸気や熱湯が大地から噴出する「地嶽」と呼ばれる風景をいたるところで見ることができ、町全体が「地嶽」のエネルギーに包まれていることを感じられる。

「地嶽蒸し工房 鉄輪」のインスタレーション

 この、別府の歴史や文化の源泉である自然のエネルギーに感謝を捧げるための「祭」を廣川は創出。火男火賣(ほのおほのめ)神社および鉄輪をメイン会場に、山から海へ、海から山へと循環する温泉のように、山・町・海へと展開していく3つの神事を行い、新たな「祭」をつくりあげ、安寧を願った。

「鉄輪むし湯」前での「地嶽祭神事奉納」の様子

 会期初日となる12月18日には「地嶽祭(じごくまつり)神事奉納」が開催。火男火賣神社から鉄輪むし湯まで、ダンサーの湯浅永麻や大宮大奨、市民らが廣川がデザインした衣裳をまとうことによって、神の依り代となり、「まれびと」として町をお祓いしながら練り歩いた。

「地嶽祭神事奉納」の鉄輪地区での練り歩き
「地嶽祭神事奉納」の鉄輪地区での練り歩き
「地嶽祭神事奉納」の鉄輪地区での練り歩き

 最終目的地である鉄輪むし湯前広場では、「まれびと」たちが太鼓の演奏とともに大地を踏み鳴らし、疫鬼と場の穢れを祓った。終盤に向かうにつれて演者と町の人々は渾然一体となり、大きなうねりとなって熱気を発していた。この「地嶽祭神事奉納」の様子は、12月29日よりウェブサイトおよび会場のひとつである洗濯場跡にて配信される。

「鉄輪むし湯」前での「地嶽祭神事奉納」の様子
「鉄輪むし湯」前での「地嶽祭神事奉納」の様子

 鉄輪むし湯の建物は、廣川の代表作「Skin Series」でできた魔除け提灯や暖簾で装飾され、普段とは異なる様相だ。また会期中は、火男火賣神社と大谷公園で「地嶽祭神事奉納」にて使用された衣裳を展示。さらに、町の商店や温泉の人々も廣川による衣裳をまとっており、町全体が非日常の祝祭感につつまれた。

大谷公園での「地嶽祭神事奉納」で使用された衣裳展示
廣川玉枝がデザインした提灯

 この「地嶽祭神事奉納」に先んじて、廣川は12月11日に伽藍岳で撮影した「追儺式(ついなしき)神事奉納」の映像作品を発表。湯浅永麻、神職、そして別府浜脇子ども太鼓が、火の精霊「火鬼(ほのき)」による疫病祓いの神楽を奉納した。芸術祭の始まりを告げるこの神事は映像作品にまとめられており、オンラインで見ることができる。

「追儺式神事奉納」の映像作品

 さらに「祭」の締めくくりとして、廣川は「火祭(ほのおまつり)神事奉納」を映像作品として発表する予定だ。聖なる火である「忌火」を海へ送りだすことで、疫鬼や災厄の侵入を防ぎ、春の到来を祝福する。その映像は会期最終日となる2022年2月13日より、オンラインで公開される。

  かつては噴き上がる熱湯によって災害も起こり「地嶽」と呼ばれた別府の町。その「地嶽」をも資源として利用し、今日まで歴史をつむいできた町のたくましさに注目したという廣川。今回の「祭」は、山に降った雨が地下水となり、暖められて熱湯となり街全体に染み渡って、やがて海へと流れていくという、別府ならではの循環をなぞる意味も込められている。

「地嶽祭神事奉納」の鉄輪地区での練り歩き

 別府の町とオンラインで開催される「廣川玉枝 in BEPPU」。この時代だからこそ求められる「祭」を体感してみてはいかがだろうか。