新進アーティストの支援を目的に設立された現代美術のアワード「TERRADA ART AWARD 2021」。そのファイナリスト展が12月10日に東京・天王洲の寺田倉庫で開幕した。
今年のファイナリストは、国内外1346組の応募のなかから、持田敦子、山内祥太、川内理香子、久保ガエタン、スクリプカリウ落合安奈の5組が選出。各ファイナリストには、それぞれ最終審査員の片岡真実、金島隆弘、寺瀬由紀、真鍋大度、鷲田めるろから審査員賞が授与された。
ファイナリスト展では、各アーティストが同アワードへエントリーした際の展示プランをもとに独自の展示をつくりあげた。なかには未発表の新作も含まれている。
持田敦子は、単管パイプと木材などの仮設的な素材を用いた螺旋階段の作品《Steps》(2021)を発表した。階段は、持田が2013年より繰り返して手がけてきた重要なモチーフ。即興的に組み上げた階段は、立体状の迷路のような空間をつくりだしており、鑑賞者は空間を新たな視点からとらえ、自由に探求することができる。
持田に審査員賞を授与した片岡は、同作について次のようにコメントしている。「行き先のない階段をつくることによって、先行きの不確実性やどこに行くかわからないようないまの気分を象徴している。長らく自宅にいてなかなかフィジカルな動きができなかったなかで、こうした展示の具体的な体験ができるというスケール感とダイナミックさも、非常に興味深いと思う」。
山内祥太は、人間とテクノロジーの恋愛模様を描き出したパフォーマンス・インスタレーション作品《舞姫》(2021)を展開。人間とテクノロジーは「皮膚の服」を通してインターアクションすることができ、互いの関係性を問いかける。会期中には、ダンサーの岡田智代、キャメロン、三好彼流によるパフォーマンスが1日3回上演される。
金島は、「山内は完全にデジタルネイティブと言われる世代だが、テクノロジーに対して非常に冷静で客観的に向き合っている」とし、「パフォーマーの要素や人間の複雑な感情とテクノロジーを組み合わせながら、非常に絶妙なバランスで立ち上げた、客観性のあるシュールな作品の強さに私は心打たれた」と評価している。
真鍋に審査員賞を与えられた久保ガエタンは、展示会場である天王洲の起源を考察した作品を展開。作品では、映像を音声に変換したものや鯨の鳴き声を会場外にある桟橋に転送し、海中スピーカーによって放送。また、海中マイクによって収集された海の音を会場にも転送している。
真鍋は同作について、「膨大なリサーチのなかから取捨選択を通して、彼なりの情報の選び方と結びつけ方で通常では考えられない物語をつくり、それをさらに分解してひとつの複雑なネットワークをつくって動かして、体験に変換したところが非常に面白いと思う」と語っている。
鷲田に賞を与えられたスクリプカリウ落合安奈の《骨を、うめる – one’s final home》(2019-21)は、2019年にベトナムのホイアンから始まった一連のビデオインスタレーションの第3章に当たるもの。展示室の入口では海を泳ぐ人の姿がとらえられた写真が展示されており、奥の空間では、円弧状のカーテンと反対側の壁面にベトナムと日本・平戸の映像が映し出されている。
鷲田は、「いろんなものを削ぎ落としながら、シンプルなかたちでまとめ上げられたインスタレーション。それが作家自身のアイデンティティを問う問題から出発しているが、それをもっと普遍的な問題に広げられていると感じる」とコメントしている。
川内理香子は、内と外の境目のなさが暗喩される神話をモチーフにした、自然と動物、身体が入り混じる世界を描いた油彩のペインティングや、針金の半立体、ネオン管の彫刻を制作し、様々な線のあり方を示した作品群を発表した。
川内に審査員賞を与えた寺瀬は香港在住のため来日できなかったが、次のようなコメントを寄せている。「本展での展示方法は、川内にとって初めての試みとのことだが、今後の作家の制作活動において重要な意味を持つように思う。川内が長年テーマとしている自己と他者、内と外、精神と肉体の対立軸は、アンビバレントでありながらつねに対話を持つことで互いの存在を認識しているからだ。川内から紡ぎ出される線の集合体が、ダイアログを持つ術を見つけたことで、今後どのような展開を見せるのか、ますます楽しみである」。
今回のファイナリスト5組には各300万円の賞金が与えられる。また会期中には、会場およびオンラインによる一般投票を通してオーディエンス賞1組が決定し、賞金100万円が授与される。