今年4月まで愛知県美術館で開催されていた横尾忠則の大規模な展覧会「GENKYO 横尾忠則 原郷から幻境へ、そして現況は?」が東京都現代美術館に巡回。7月17日に開幕した。
本展は、高校時代の作品からグラフィックや絵画の代表作まで、横尾が60年以上にわたって制作した作品を一堂に紹介するもの。企画監修を務めた愛知県美術館前館長・南雄介は、「愛知の展覧会とまったく違う展覧会と言ってもいいほど、内容的にスケールアップした展覧会だ」と語る。
東京展では、愛知展に出品された作品の約半分が入れ替わった。横尾自身の総監修によって構成を根本的に見直すとともに、去年から今年にかけて描かれた新作を含めて200点以上の作品を新たに加え、500点以上の作品を出品している。
横尾は1960年代初頭よりグラフィック・デザイナーやイラストレーターとして活動を開始し、80年代には「画家宣言」によって画家・芸術家へと活動領域を移した。本展について南は、「本当に集大成と言える、横尾さんのいわゆる『画家宣言』以降の芸術の全貌を総合的にご覧いただけるまたとない機会」と述べている。
東京都現代美術館の3フロアを使った本展は、横尾の「画家宣言」直後の作品を紹介する「神話の森へ」から始まる。森のなかの裸体を描いた作品や日本神話をテーマにした作品、そして鏡や電飾など様々なオブジェをコラージュした作品が集まるこのセクションでは、国際的な新表現主義の動向を注視しながら、自らの絵画を見出そうとした横尾の試行錯誤を見ることができる。
続く「多元宇宙論」では、横尾が美術史や映画などから引用されたイメージを組み合わせてコラージュした「多次元絵画」を、「リメイク/リモデル」では、横尾が60年代に現代女性を挑発的に描いた連作を2000年代以降にリメイクした作品を紹介。そのインスピレーションの源泉や、長年実践してきた制作手法の原点をたどる。
1階の展示室には、本展のハイライト作品《滝のインスタレーション》も展示。横尾は、滝の絵を描くために絵はがきを収集し始め、そのコレクションはすでに1万枚を超えている。本作は、その膨大な絵はがきのコレクションを使った体感型のインスタレーション。天井や壁面を覆い尽くす滝の絵はがきは、床の鏡面にも映り込んでおり、ダイナミックな空間をつくりだしている。
3階に上がり、展示は横尾の代表作「Y字路」シリーズへと続く。昼間のY字路や黒いY字路など、様々なY字路がモチーフに描かれたこのシリーズは、横尾が「いかに生きるか」を絵画的実践としてとらえ直したもので、その制作のターニングポイントとも言える。
「横尾によって裸にされたデュシャン、さえも」と「終わりなき冒険」では、横尾が20世紀西洋絵画の巨匠、デュシャンやピカソ作品の細部を自身の絵画に引用した作品を展示。デュシャンらの反時代的な精神を横尾が取り入れたアプローチとなる。
3階の最後の展示室「原郷の森」には、横尾がコロナ禍以降に描いた新作・近作が集まった。これらの作品について、横尾は「それ以前の作品を全否定するような、じつにいい加減な描き方をしている」と話す。震えるような筆触を用いた作品には躍動感のある色彩空間が生まれ、抽象性と具象性が融合された新たな境地に到達している。
なお、美術館のエントランスホールとミュージアムショップ内には、横尾が新型コロナウイルスの感染拡大を受けて制作し始めた「WITH CORONA(WITHOUT CORONA)」シリーズが並ぶ。横尾が自身の作品やテレビのニュースなど、様々なイメージを素材にマスクをコラージュし、コロナ禍という未曾有の状況に生まれた新たなアプローチだ。
本展の開幕にあたり、横尾は「絵のなかですべて語っているので、僕の絵と対話していただければと思う」と話した。60年以上にわたって制作を意欲的に続けている横尾の芸術への探求を、ぜひ会場で堪能してほしい。