数多くのリサーチやプロジェクトをグローバルに展開し、高い評価と注目を集めている現代美術作家・加藤翼。その日本初となる美術館個展「縄張りと島」が、初台にある東京オペラシティ アートギャラリーで開幕した。
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加藤翼は1984年生まれ。2007年に武蔵野美術大学造形学部油絵学科を卒業し、10年に東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画を修了した。2011年より無人島プロダクションで個展を行うほか、「Uprising」(ジュ・ド・ポーム国立美術館、パリ、2016)、「あいちトリエンナーレ 2019 情の時代」(名古屋、2019)、「BECOMING A COLLECTIVE BODY」(イタリア国立21世紀美術館、ローマ、2020)、「They Do Not Understand Each Other」(大館當代美術館、香港、2020)、「Scratching the Surface」(ハンブルガー・バーンホフ現代美術館、ベルリン、2021)、など国内外でグループ展に参加。その作品は東京国立近代美術館、国立国際美術館、愛知県美術館、豊田市美術館、森美術館、ウルサン美術館(韓国)などに収蔵されている。
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本展タイトルにある「縄張りと島」は、ともに「テリトリー」を意味するもの。加藤の活動は様々な場所に移動し、そのコミュニティと協働するなかで生まれてきたものだが、コミュニティあるいはそこで行われるパフォーマンスは「その他」との境界線を引き、ある種のテリトリーを生み出すものでもある。本展で加藤は、「様々な視座からテリトリーを見直すことが自身の活動を網羅するときに有効」だと考えたと話す。
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会場に並ぶのは、集まった人々が知恵を出し合い、ロープと人力だけで巨大な構造体を引き倒したり、引き起こしたりする「Pull and Raise」シリーズをはじめとする、加藤の代表作の数々。
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例えば3.11を逆にした11.3(文化の日)に行われた《The Lighthouses ‒ 11.3 PROJECT》(2011)は、加藤にとって大きな転機となった作品だ。東日本大震災後、福島県いわき市で避難所への生活物資の支給や炊き出しを行い、瓦礫の撤去作業にボランティアとして参加した加藤は、そのかたわらで家を失った家主たちから大量の木材を提供を受けた。そして2011年11月3日、加藤の呼びかけによって集まった500人の人々が、津波で壊された家々の瓦礫でつくった灯台を模した巨大な構造物を、力を合わせて引き起こした。これが契機となり、同プロジェクトは復興を目指す地域の祭事へと発展したという経緯がある。
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新型コロナウイルスによって人々が物理的あるいは精神的に分断される現代において、加藤がこれまで行ってきた協働の軌跡はまた違った意味を帯びている。
加藤はこう語る。「アートは普遍性と時代の特異性のバランスで成り立っている。解釈が変わることはいいことで、僕たちはその変化の連続性のなかに生きている」。
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2007年から主に木材による巨大な「構造体」つくりはじめた加藤。本展では、この構造体が、展示室の広大な空間を占拠するように効果的に配置されている。「パフォーマンスという時間メディアと、構造体という物理的なメディアをどう組み合わせるのか」を考え、15年の経験を反芻しながら構成された会場。映像と構造体が組み合わされることで、映像の中の身体性が会場にも伝わってくるようだ。
人間は協働できる生き物なのだという可能性を示す加藤の力強い作品群。圧倒的な構造体とともに体感してほしい。