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慶應義塾ミュージアム・コモンズが開館。全学の収蔵品アーカイヴを広く公開

慶應義塾大学三田キャンパスの東別館に新ミュージアム「慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)」が4月19日に開館。オープン記念企画「交景:クロス・スケープ」もスタートした。会期は6月18日まで。

慶應義塾ミュージアム・コモンズが入る慶應義塾大学三田キャンパス東別館

 慶應義塾大学が三田キャンパスに竣工させた東別館に、新ミュージアム「慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)」が開館。オープン記念企画「交景:クロス・スケープ」のふたつの展示「文字景──センチュリー赤尾コレクションの名品にみる文(ふみ)と象(かたち)」と「集景──集う景色:慶應義塾所蔵文化財より」もスタートした。会期は6月18日まで。

慶應義塾ミュージアム・コモンズのエントランス

 KeMCoは、160年を超える慶應義塾の歴史のなかで集積された学内の文化財や学術資料を相互に連携させ、活用し保存する新たな施設。資料を通じた領域横断的な研究・教育活動の発信と、先端的なIT技術を駆使したアナログ・デジタルの融合による新たな展示収蔵モデルを提案していく。

慶應義塾ミュージアム・コモンズのエントランス

 KeMCoが入る東別館は11階建て。研究室、展示室、収蔵庫、カンファレンスルームのほかクリエイション・スタジオの「KeMCo StudI/O」が入居している。

慶應義塾ミュージアム・コモンズ

 国道1号線に面したエントランスから室内に入ると、吹き抜け状の階段から2階の「オープン・デポ」や3階の展示室へ上ることができる。2階の「オープン・デポ」はふたつの収蔵庫に挟まれたガラス張りの前室で、この部屋で作品貸出の点検作業や調査作業、展覧会準備などが行われる。ガラス張りとしたことで、学芸員の日常業務を来館者が垣間見ることができる。

オープン・デポ

 2階踊り場では、大山エンリコイサムが同館に常設展示した新作《FFIGURATI #314》制作の記録映像を壁面に投影。また周囲の壁は作品を吊ることができる仕上げで、天井にはピクチャーレールや照明が備えつけられている。同館学芸員の本間友は次のように語る。「展示空間が広いとは言えない施設なので、屋内のあらゆるところで展示ができるように工夫した。今回は特別に9階のカンファレンス・ルームでも展示を行っているが、今後も施設全体を利用した様々な展示を考えていきたい」。3階まで階段を上ると慶應義塾大学の校舎を臨むオープンテラスがあり、ここも展示空間として活用することが考えられているという。

2階のエントランスと大山エンリコイサムの記録映像
オープンテラス

 3階のふたつの展示室「ルーム1」と「ルーム2」では、オープニングを飾る展示のひとつ「文字景──センチュリー赤尾コレクションの名品にみる文(ふみ)と象(かたち)」が開催されている。

 「センチュリー赤尾コレクション」は、旺文社の創業者である赤尾好夫によるコレクションで、管理するセンチュリー文化財団は1991年から2002年まで文京区の本郷でセンチュリーミュージアムを運営していた。その後、早稲田に移って展示活動を続け、2020年度をもって閉館した。KeMCoのオープンにあたって、同財団の「センチュリー赤尾コレクション」から多くの美術品が寄贈。同展は、この寄託品と慶應義塾が所蔵していた資料を併せて構成されている。

展示風景より、左から板谷広長筆《大原御幸図》(18-19世紀)、伝岩佐又兵衛《朧月夜内侍図》(17世紀)、伝藤原俊成筆《源氏物語「宿木」断簡》(13世紀)

 展示は「承ける──漢字の伝来と展開」「つなぐ──ひらがなの文化」「物語る──テキストとイメージ」の3章構成。「漢字」とそこから生まれた「ひらがな」に着目し、鏡、器物、写経といった漢字の資料、絵巻、屛風、工芸品といったひらがなの資料、さらに双方を組み合わせて編まれた物語資料を展示する。

 「ルーム1」の「承ける──漢字の伝来と展開」では、センチュリー文化財団から新たに寄託された、日本屈指の質と量を持つ古鏡コレクションや、平安時代に書かれた書物、写経などを展示。日本に渡ってきた漢字が仏教の学びを支え、やがて日本独自の美意識を育む土台となっていたことがわかる美術品や資料が展示される。

展示風景
展示風景より、古鏡コレクション
展示風景より、伝藤原行成《群書治要 巻第30断簡》(11世紀)

 同じく「ルーム2」で開催されている「つなぐ──ひらがなの文化」 は、漢字から発展した日本独自の文字、ひらがなを美術品や資料から紐解くもの。とくに和歌はひらがなにより花開いた日本文化であり、連綿とつづられた美しいかな文字の断簡や、崇敬の対象であった三十六歌仙たちの姿から、世紀を超える魅力が伝わってくる。

展示風景
展示風景
展示風景より、近衛信尹賛《三十六歌仙図屏風》(17世紀)

 「ルーム2」で開催の「物語る──テキストとイメージ」は、こうした漢字やひらがなによって編まれた『源氏物語』『平家物語」を紹介する。近世にいたるまで様々な写本の存在が知られている両作品。各系統の出自や関係性について様々な研究が続けられており、今回加わったコレクションにより、研究が一段と進むことが期待されている。

展示風景
展示風景より、上が《源氏物語「葵」》(17世紀)
展示風景より、伝岩佐又兵衛《朧月夜内侍図》(17世紀)
展示風景より、《平家物語絵巻断簡(巻第2・小教訓)》(17世紀)

 9階のカンファレンス・ルームと8階のクリエイション・スタジオ「KeMCo StudI/O」では、「集景──集う景色:慶應義塾所蔵文化財より」を開催。慶應義塾にゆかりのある作家による美術作品から、教育に用いられていた作品、研究の対象となっていた作品などを展示。寄贈者と学校を通じて、人々の交流や、作品が集った経緯なども提示する。

カンファレンスルームのエントランス

 9階では大正時代に慶應義塾で学び、ギリシア美術の研究をした武藤金太が購入したギリシア彫刻の頭部や、慶應義塾の一貫教育校で学びその後美術大学に進んだ駒井哲郎や千住博の作品などが、ゆかりの作品として展示。

「集景──集う景色:慶應義塾所蔵文化財より」展示風景
「集景──集う景色:慶應義塾所蔵文化財より」展示風景

 また、同大教員であった西脇順三郎、同大の学生だった小山敬三、「本物を使って実習をさせたい」との教員の思いから教材として入手されたパブロ・ピカソのドライポイントなど、ここに集まった来歴は様々だ。

「集景──集う景色:慶應義塾所蔵文化財より」展示風景

 そして、現在東大駒場博物館で回顧展「宇佐美圭司 よみがえる画家」(4月28日〜6月27日)が開催されている宇佐美圭司の作品も、油彩と水彩を1点ずつ展示。慶應義塾大学には図書館新館や矢上キャンパス創想館などに展示されるかたちで、計4点の宇佐美作品が存在しており、本展ではその繊細なタッチを間近で見ることができる。

「集景──集う景色:慶應義塾所蔵文化財より」展示風景

 8階にある「KeMCo StudI/O」では、大山エンリコイサムによる《FFIGURATI #314》(2020)を見ることが出来る。大山が追求してきたモチーフ「クイックターン・ストラクチャー」が、建物の円柱に壁画として描かれ、カーテンへの転写プリントとともにひとつの作品を構築する。

展示風景より、大山エンリコイサム《FFIGURATI #314》(2020)

 同作がある「KeMCo StudI/O」には、電子工作機器や3Dスキャナー・プリンター、レーザーカッターなど、デジタル・アナログの様々な工作機能が備わる。来館者や学生、教職員、研究者などが、展示収蔵の実践に接しながら、横断的に創造することができる設備となっており、慶應義塾の所蔵文化財ポータルサイト「Keio Object Hub」に登録される文化財もここでアーカイヴ化されている。

KeMCo StudI/O
KeMCo StudI/O

 センチュリー赤尾コレクションや大学内にあった所蔵品を、キュレーションによって広く開かれたかたちで見せるKeMCo。学芸員の本間は今後の展望について次のように語った。「現在は新型コロナウイルス感染対策のために予約制となっているが、いずれは多くの人を自由に受け入れる施設にしていきたい。慶應義塾内の各所の所蔵品を集約するのではなく、各所で研究が行われている所蔵品をつなぎ、次代へと伝えていくハブとしての役割を期待している」。

1階エントランス

編集部

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