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青森県を「アート県/圏」に。「青森アートミュージアム5館連携」が目指す姿とは?

青森県内の5つの美術館とアートセンターが連携する初のプロジェクト「5館が五感を刺激する―AOMORI GOKAN」。その本格始動にあわせ、2月27日にはトークイベント「アート県/圏『青森』の挑戦!!」が開催された。各館の代表も参加したこのイベントで示された5館連携のポテンシャルとは?

トークイベント「アート県/圏『青森』の挑戦!!」の登壇者ら

 本州最北端に位置する青森県は、県内に複数の現代美術館を持つユニークな地域として知られている。奈良美智による常設作品《あおもり犬》で愛される青森県立美術館、アーティスト・イン・レジデンス(滞在制作)事業で知られる青森公立大学国際芸術センター青森(ACAC)、田根剛によるリノベーションでシードル工場から生まれ変わった弘前れんが倉庫美術館、38点の恒久設置作品が特徴的な十和田市現代美術館、そして今年11月に全面建て替えを経て開館する八戸市美術館。

 これら5館が昨年7月、「青森アートミュージアム5館連携協議会」を設立。各施設が持つ特徴と県内のアートや文化をつなぎ、その魅力を発信する連携プロジェクト「5館が五感を刺激する―AOMORI GOKAN」が本格的に始動した。

AOMORI GOKAN ロゴマーク

「アート県」青森県でできること

 2月27日には、このAOMORI GOKANによる初のトークイベント「アート県/圏『青森』の挑戦!!」が開催。5館連携の様々な可能性が示された。そのハイライトをここで紹介したい。

 イベントは、十和田市現代美術館や弘前れんが倉庫美術館にも深く関わるエヌ・アンド・エー株式会社代表取締役・南條史生の基調講演「新しい時代のアートの未来」と各施設の紹介、そしてトークセッション「新世紀に生まれた美術館、“アートの力”を考える」で構成。

トークイベントより

 南條は「5館もの美術館が連携できるのは青森だけ。バランスよく県内に美術施設がつながることで、アートの県というメッセージが発信できる」としながら、県内の美術館・観光情報を統合した広報ブランディングの必要性を説くとともに、5館を基盤にした芸術祭開催などによる経済・文化振興、さらには美術館を中心とする情報や交通網、観光産業の整備などの可能性を示唆する。

 とくに注目すべきは、5館連携による芸術祭の可能性だ。日本では数多くの地域芸術祭が開催されていることは周知の事実で、もっとも成功している例のひとつである瀬戸内国際芸術祭は、2019年開催時に来場者数118万人、経済波及効果180億円という数字を記録。また、ひとつの県内で広範囲に行われた芸術祭の例として、南條がディレクションした「茨城県北芸術祭2016」は1回きりの開催に終わったものの、広告換算で2853件36億円、経済波及効果33.33億円という数字を残している。

 これまで日本で行われた地域芸術祭で、5館もの美術館が基盤となった例はない。美術館という恒久的な施設が軸になることで、これまでにない持続的な芸術祭も可能となるだろう。

美術館は「ハブ」になれるか?

 南條に加え杉本康雄(青森県立美術館館⾧)、鷲田めるろ(十和田市現代美術館 館⾧)、大川朝子(株式会社昭文社 ことりっぷ担当)、 木ノ下智恵子(大阪大学共創機構社学共創部門准教授)が参加したトークセッションでは、青森5館に求められる役割について話が及んだ。

 モデレーターの木ノ下は、「21世紀に入りアートの役割と可能性は拡張してきた」としながら、ニューノーマルが謳われる現在において、既存の価値観を問い直し、異質なものをつなぎあわせるアートの役割はますます重要になっていると指摘。

 南條も世界の美術館は近年、コミュニティハブ、クリエイティブハブとしての役割が強くなってきていると分析する。「美術館は見る場所から参加する場所へ、能動的なものに変わりつつあるし、そうあるべき。例えば十和田市現代美術館は企画展示室が小さいので、大きな展覧会をやるために街に出るしかない。そうなると街全体がキャンバスになる。フレキシブルな役割が求められる」。

 また大川は、観光の観点から美術館を街を巡る拠点にすること、街全体を美術館としてとらえることがポイントだと話す。そのためには展示だけでなく美術館建築の魅力も欠かせない要素ではあるが、青森5館はそれぞれが安藤忠雄や青木淳といった著名建築家による建築で、大きなアドバンテージを有している。

 観光振興には地域との連携も課題だ。杉本は5館連携によって青森の経済活性化をにらむ。「美術館と地域がいかに連携できるかを考え、実行していきたい。青森モデルの芸術祭を見据えながらみんなで進んでいけたら」。

 5つの美術館は、当然ながらそれぞれ異なる個性を持ち合わせている。例えば青森公立大学国際芸術センター青森はアーティスト・イン・レジデンスに強みを持ち、新たに開館する八戸市美術館は教育普及などに注力する。鷲田はこうした個性を組み合わせ、これまでにないプロジェクトや取り組みを行うことが大きな力になる、と期待を寄せた。

 2000年以降に開館した5つの美術館によって、ますます盛り上がりを見せる青森のアート。5館は共通のテーマを設け、共同および館独自での取り組みを行うことも予定しており、第一弾テーマが「建築」となることも発表された。加えて、青森のアートを巡る「青森アート散歩」の初回として、県内のアートスポットを「青」と「森」をテーマに巡るアート散歩を提案する。

 5館連携の公式サイトも本格スタートし、各館の情報や各館をつなぐアクセス情報をまとめて見ることができる。青森5館の最新情報はこちらからチェックしてほしい。

トークイベントより

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