新型コロナウイルスの影響で国内外の芸術祭が大きな影響を受けるなか、日本を代表する国際写真祭「KYOTOGRAPHIE」が8回目となる開催を迎えた。
KYOTOGRAPHIE 2020は当初4月に開幕予定だったものの、新型コロナの感染拡大を受けて開幕を延期。その影響で資金難となるも、クラウドファンディングを通じて資金を調達し、開催へとこぎつけた。
今回掲げられるテーマは「VISION」。目に見えるものだけでなく、想像して見るものも意味しており、「ビジョンを共有しないと、いい未来は築けない」という強いメッセージが込められている。
会場となるのは京都市内の14ヶ所。このうち、とくに注目したいものをピックアップしてお届けする。
出町桝形商店街
鴨川デルタからほど近い「出町桝形商店街」では、セネガル出身のオマー・ヴィクター・ディオプの「MASU MAUS MASUGATA」が存在感を放つ。
昨年秋に来日した際、出町桝形商店街で働く店主たちを撮影したオマー・ヴィクター・ディオプ。店主のポートレートと店で扱う商品などをコラージュした大型作品が、商店街のアーケードを飾る。このシリーズについて、KYOTOGRAPHIE共同創設者で共同ディレクターのひとりである仲西祐介は、「ローカルと海外をつなぐというKYOTOGRAPHIEのメッセージを端的に表した作品」だと語る。
なお今回、KYOTOGRAPHIEは初となるパーマネントスペース「DELTA」をこの商店街内にオープンさせた。鴨川の三角州(通称鴨川デルタ)から名付けられたこのスペースは、展示スペースやカフェ、1組限定の宿泊施設として機能する。ここにもオマー・ヴィクター・ディオプの作品が展示されているので、ぜひチェックしてほしい。
鴨川デルタ付近
京都の市井の風景を50年以上取り続け、70年代には屋外でその写真作品を自主展示する「青空写真展」を20数回開催してきた甲斐扶佐義。
今回、甲斐は「鴨川逍遥」と題し、約40年ぶりに鴨川デルタ付近の屋外3ヶ所を会場に作品を展示。鴨川付近に暮らす人々や鴨川を訪れる人々を撮影した作品や、異次元の入り口へ誘うような子供たちの遊ぶ様子をとらえた作品のほか、数シリーズを展示した。時を超え、同じ場所に舞い戻ってきた作品は広く市民に開かれている。
なお甲斐は、京都駅の駅ビル空中径路において女性のポートレート100点を展示しているので、こちらも忘れずにチェックしたい。
誉田屋源兵衛 竹院の間
映画監督ウォン・カーウァイの元専属フォトグラファー兼グラフィックデザイナーとして知られるウィン・シャ。シャの展示「一光諸影」では、映画『花様年華』のスチールやファッションフォトなど、未発表を含む初期作から新作まで45点の写真を発表。そのほか映像などを含め、シャのキャリアを一望できる内容だ。
会場となる誉田屋源兵衛は江戸時代から続く老舗の帯匠。展示をデザインした遠藤克彦建築研究所は、奥へと細長く伸びる町屋の建築様式を生かしつつ、「帯」からもインスパイアされた空間を生み出した。写真は一直線に並んでおり、展示台の側面をミラーにすることで、作品が空間に浮いているような効果が生まれている。絵巻を見るように、色鮮やかなシャの写真を堪能したい。
嶋臺(しまだい)ギャラリー
嶋臺(しまだい)ギャラリーでは、今年第45回木村伊兵衛写真賞を受賞したことでも話題を呼んだ片山真理の個展「home again」が開催されている。
本展のキュレーターは、ヨーロッパ写真美術館館長のサイモン・ベーカー。本展では、片山がこれまでの10年間で取り組んできた作品を展覧。とくに注目したいのは、自身の足をモチーフに制作した最新シリーズ「in the water」だ。
2017年に娘を出産した片山は、それをきっかけにに、ストレートに自分の身体に意識が向くようになったと語る。3年のブランクを経て、再スタートしようという気持ちを込めたというこの最新シリーズは、片山の新たな章の幕開けと言えるだろう。
京都府庁旧本館
パリを拠点に活躍する写真家ピエール=エリィ・ド・ピブラックは今年、銀座のシャネル・ネクサス・ホールで個展「In Situ」を行った。その展示の巡回展となるのが京都版の「In Situ」だ。この展覧会は、作家自身がパリのオペラ座で活動するバレエダンサーたちに密着しその様子をとらえたシリーズ「In Situ」を一望するもの。
作品は「Confidences 」「Analogia」「Catharsis」の3部から構成されており、バックステージやリハーサル中に撮影したモノクロ写真、11人のバレエダンサーたちとともに構図を考えながら制作されたカラー作品、バレエダンサーの動きを「ボケ」によって写したものからなる。京都府庁旧本館という明治期の建築空間は、パリ・オペラ座を題材にした作品群と高い親和性を見せる。
同じく京都府庁旧本館の旧議場では、出町桝形商店街でも作品展示をしていたオマー・ヴィクター・ディオプが「Diaspora」シリーズを日本初公開。
このシリーズは、欧米で活躍したアフリカ出身の歴史上の偉人と、欧州リーグでプレーするアフリカ出身のサッカー選手、そして当時欧州で活動していた自らを重ねたセルフポートレート。
ディオプは自身が写真家としてもてはやされるいっぽう、黒人であることを理由に差別などを受けた経験をもとに、本作は構想された。このプロジェクトによって移民問題に一石を投じ、アフリカ人たちの歴史に新たな光を当てることを狙う。現代の「Black Lives Matter」ともつながる作品だ。
伊藤佑 町家
取り壊しが決まっている5軒の町家が連なる長屋。ここでは福島あつしの「弁当 is Ready」と、マリアン・ティーウェンの「Photo Exhibition Deatroyed House」「Architectual Installation Destroyed House Kyoto」が並ぶ。
福島あつしは昨年、KYOTOGRAPHIEのサテライトイベントである「KG+」でグランプリを受賞。独居老人を対象とした弁当宅配人として撮影した老人たちのポートレートを、一連の作品群として発表した。
今回、福島は10年間で撮りためた写真の数々を公開。その時間軸を追体験できるよう、臨場感を重視して展示を構成したという。
撮影当初、福島が独居老人に対して抱いていた「死」のネガティブなイメージと、時間を経ることで気づいた人間の強さ=生のイメージ。その両方が、グラデーションとなって会場に並ぶ。
いっぽうマリアン・ティーウェンは、取り壊しが決まっている建物の内部を使用した、大規模な建築インスタレーションで知られるアーティスト。
今回の「Destroyed House Kyoto」は、ティーウェンにとって9作目となる建築インスタレーションで、2棟の町家を丸ごと使用。徹底的に建物に介入/破壊することで、建物は彫刻へと変化していく。なお、作品として使用される素材はすべて元の町家を構成していたもの。外観からは想像できないダイナミックな空間を体感してほしい。
アトリエみつしま Sawa-Tadori
フランスの写真家マリー・リエスは、フランス国立盲学校の生徒を被写体としたポートレート作品を、10年という長い歳月をかけ撮影した。
アトリエみつしま Sawa-Tadoriで展示される「二つの世界を繋ぐ橋の物語」では、このポートレート作品とともに「さわる」写真も展示。フランスからは極度の近視の版画家フロランス・ベルナールの協力のもとエンボス写真を、また日本からはアトリエみつしま Sawa-Tadorのオーナーであり全盲のアーティスト・光島貴之らから助言を受け、UVプリントで触れる写真を制作した。
HOSOO GALLERY
2016年から毎年、KYOTOGRAPHIEに参加しているシャンパーニュメゾン・ルイナール。今年は、1988年生まれの若手写真家エルサ・レディエとのコラボレーションを見せる。
19年にメゾン ルイナール アワードを受賞したレディエは、メゾン本社でのインスピレーションを受け新作となる「Heatwave」シリーズを制作。作品のモチーフとして、葡萄やシャンパーニュボトル、シャルドネの葉、あるいは製造工場の設備などが用いられている。
レディエが着目したのは、写真撮影とシャンパーニュに欠かせないものとしての共通点である「光」だ。シャンパーニュを紫外線から守るために使用される素材を通し、光をフィルタリングするレイヨグラムの手法を使い、独特の色彩を写真に与えることに成功した。また光をテーマにすることで、レディエは人間と自然の関係性、そしてそれに大きく影響する気候変動への問題を提示する。
なお会場には天井からカラーフィルターが吊るされており、それを通して作品を見ることで様々な色の変化が楽しめる。
サテライトイベント「KG+SELECT」
KYOTOGRAPHIEのサテライトイベントとして毎年開催されている公募型アートフェスティバル「KG+」。そのなかで19年から始まった新しいプログラム「KG+SELECT」では、国際的に活躍する審査委員会によって応募のなかから選出された10組のアーティストが元・京都市立淳風小学校の各教室で作品を発表している。今年の参加作家は、リャン・インフェイ、草本利枝、髙橋健太郎、黄郁修、ウスイチカ、陳啟駿、小出洋平、MOTOKI、中川剛志、クロエ・ジャフェ。