NEWS / REPORT - 2019.4.13

京都で写真の「VIBE」を感じる。
7回目となる「KYOTOGRAPHIE」が開幕

2013年より毎年回数を重ね、その存在感を示してきた「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」。その第7回目が4月12日に開幕した。「目に見えないものがつながるときに生まれる共振や共鳴(=VIBE)」をテーマに据える今回のハイライトをお届けする。

KYOTOGRAPHIE 2019より金氏徹平「S.F.(Splash Factory)」の展示風景

 日本屈指の観光都市である京都。ここで2013年から回数を重ねてきた写真の国際展「KYOTOGRAPHIE」が、4月12日に開幕した。これまでの全6回の累計来場者数は約56万人。第7回目となる今年は、目に見えないものがつながるときに生まれる共振や共鳴=「VIBE」を、テーマに据えて、様々な展示が展開されている。ここではその中から、とくに注目したい展示をピックアップして紹介したい。

前衛写真家の日本初個展。アルフレッド・エールハルト「自然の形態美」(建仁寺両足院)

 ドイツ・ワイマールで創立された教育機関「バウハウス」が今年100周年を迎えた。これを記念して行われているのが、ドイツの前衛写真家でバウハウスでも教鞭を執ったアルフレッド・エールハルト(1901〜84)の日本初個展「自然の形態美ーバウハウス100周年記念展」だ。

展示風景

 会場となるのは、東山にある臨済宗建仁寺派の総本山・建仁寺の両足院。インディペンデント・キュレーターのソニア・フォスがキュレーションを手がける本展では、自然形態に焦点を当てたエールハルトを代表するシリーズ「Das Watt(干潟)」と、映像作品を展示。フォスはエールハルトの作品について、「自然美は自然によって構成されたものですが、彼の作品を通してシステマチックなものを感じ取れるでしょう」と語る。

 黒い畳が印象的な展示デザインは、大阪中之島美術館の基本設計を手がける建築家・遠藤克彦が担当。自然を切り取るエールハルトの写真を、両足院の庭と一体の風景として鑑賞できるようなデザインとなっている。なお、庭園内の茶室でも大判の水晶を写した作品が展示されているので、見逃さないようにしたい。

茶室の展示風景
両足院の庭園

二条城をカメラ・オブスクラに。イズマイル・バリー「クスノキ」(二条城二の丸御殿お清所)

 世界文化遺産である二条城の敷地内。かつての台所に当たるのお清所(きよどころ)を丸ごと作品の実験場に変えたのが、パリとチュニスを拠点に活動するイズマイル・バリーだ。

展示風景

 会場に人工照明はなく、随所に設けられた「開口部」から入る自然光のみが内部を照らす。また、写真作品がないのも本展の特徴だ。バリーはこの展示において、木造建築であるお清所全体を「カメラ・オブスクラ(暗い部屋)」に見立て、写真というメディアを使わずに、光を用いることだけで写真をいかに感じられるのか、という壮大な試みを行なっている。

 バリーはこの展示について、「会場全体をカメラとしてとらえるのは大きな挑戦でした。隙間に一枚の紙を貼っただけで、光の様子や空気の循環などが感じられるでしょう」と語る。内と外をつなぐ役割を担ったお清所によって、鑑賞者は「光を通じて物体を見るとはどういうことなのか」という問いに直面する。

展示風景

“素晴らしい世界”とは何か? ヴェロニカ・ゲンシツカ「What a Wonderful World」(しまだいギャラリー)

 一見なんの変哲もない家族写真。しかしよく見てみると、どの写真も奇妙に加工されていることがわかる。これを手がけたのは、1984年ポーランド生まれのヴェロニカ・ゲンシツカだ。

展示風景

 ゲンシツカは、1950~60年代に撮影されたアメリカのアーカイブ写真(ストック・フォト)を買い集め、それらをフォトモンタージュで合成することで、作品へと変化させている。

 これらのアーカイブ写真を使う理由について、ゲンシツカはこう語る。「(この時代の)アメリカの家族写真は、あまりにも典型的すぎて不自然さを感じます。その裏には一体どのような意図があるのか、という疑問が制作の背景にあるのです」。ゲンシツカはそうした不自然さを逆手に取り、自らの手を加えることで写真に新しい歴史を加え、再構築しているのだ。

 写真がパーフェクトでなければいけないという姿勢は、Instagramなど昨今のSNSにも通じるだろう。ゲンシツカの試みは、現代の鑑賞者に対して「美化されたイメージのあり方」について疑問を投げかけている。

展示風景
しまだいギャラリー

春画と写真が出会う場所。「ピエール・セルネ&春画」(誉田屋源兵衛 竹院の間)

 東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールで今年3月に開催された「ピエール・セルネ&春画」を、KYOTOGRAPHIEで見ることができる。

展示風景

 会場となるのは、江戸時代から続く帯匠・誉田屋源兵衛(こんだやげんべい)の竹院の間。奥に長細く伸びるこの空間は、京唐紙によって壁が装飾された独特の雰囲気を持つ場所だ。

 シャネル・ネクサス・ホールの展示では、鳥文斎栄之、鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、葛飾北斎という5人の絵師の春画と、個人あるいはカップルのヌードを被写体としたセルネの写真シリーズ「Synonyms(類似表現)」が展示された。

 今回はその構成に加え、葛飾北嵩(ほくすう)、歌川国芳、歌川国貞、歌川国虎、勝川春潮といった北斎以降の様々な絵師の春画も紹介。より春画の流れを楽しめる内容となっている。

展示風景。手前は歌川国芳《逢見八景》(1833)
展示風景

 また空間構成はシャネル・ネクサス・ホールと同じくおおうちおさむが手がけており、「覗き窓」を思わせる丸窓などを引き継ぎながら、竹院の間の古い建具や京唐紙が、春画とセルネの世界をより一層引き立たせている。

誉田屋源兵衛

振付師ベンジャミン・ミルピエの世界初個展。「Freedom in the Dark」(誉田屋源兵衛 黒蔵)

 元プロダンサーであり、現在は振付師や映画監督として世界的に活躍するベンジャミン・ミルピエ。その世界初個展となるが「Freedom in the Dark」だ。

 「振付師としての仕事で念頭に置いているのは、時間と空間どのようにつなげるかということ。時間はすべての人にとって価値があるものであり、ダンサーの中にそれをどう表現するのかが課題なのです」と語るミルピエ。

ベンジャミン・ミルピエ

 今回の個展では、拠点にしているロサンゼルスで道行く人々を写したスナップ写真を展示。モノクロの写真群には、「カラフルなアメリカンカルチャーにも暗部がある」という意味が込められており、「被写体がどう映るかということについては気にせず、いまの状態はどうあるのかということにフォーカスして撮っている」という。

展示風景

 また奥の空間にも注目したい。写っているのはダンサーたち。「アクションが起こるのは自己表現です。ダンサーが自由に行なっていること。その瞬間をとらえるのが面白いですね」と、振付師ならではの視点で撮影した作品が並ぶ。

ポートレイトの巨匠。アルバート・ワトソン「Wild」(京都文化博物館 別館)

 アルフレッド・ヒッチコックやスティーブ・ジョブスなど、誰もが一度は見たことがある著名人のポートレイトを数々手がけてきたのが、アルバート・ワトソンだ。

展示風景

 国の重要文化財である京都文化博物館 別館が、ワトソンの展覧会「Wild」の舞台。規則正しく並んだ柱の間を展示壁面がつなぐ空間構成は、ともすれば単調になりがちなポートレイトの展示に良いアクセントを与えている。

 本展では、メインビジュアルにも使用されている坂本龍一の写真をはじめ、様々な年代の作品を展示。ワトソンの歩みがいかに多種多様なものでああったのかを示す内容となっている。

展示風景
京都文化博物館 別館

印刷所の歴史をコラージュに。金氏徹平「S.F.(Splash Factory)」(京都新聞ビル 印刷工場跡)

 前回のKYOTOGRAPHIEで会場のひとつとなり、大きな話題となった京都新聞ビルの地下にある印刷工場跡。今回ここを舞台に壮大な展示をつくりあげたのが、金氏徹平だ。

展示風景

 彫刻やインスタレーションを中心に、絵画から舞台美術まで幅広い領域で活動する金氏。本展では、かつて新聞を印刷していた工場の痕跡からインスパイアされた展示をつくり出した。

 インクの染みなどを撮影し、それを重ねた平面や映像、現在は別の場所にある京都新聞の印刷工場を撮影した映像、立体作品、そして音響作家や照明家などとコラボレーションした「舞台」のようなインスタレーションまで、本展は様々な要素から成り立っている。しかし会場に足を踏み入れれば、そのすべてがコラージュされ、巨大なひとつの作品となっていることがわかるだろう。金氏が示すインストラクションに従って、この独特な空間に入り込んでほしい。

展示風景
展示風景
会場では「号外」も配られている

ルイナールとアーティストの出会い。ヴィック・ムニーズ「Shared Roots」(ASPHODEL)

 1896年のアルフォンス・ミュシャ以来、毎年アーティストとコラボレーションしてきたシャンパーニュ・メゾン「ルイナール」。その2019年のコラボレーション相手となったのがブラジルの現代美術家、ヴィック・ムニーズだ。

ヴィック・ムニーズ

 2018年のブドウ収穫期に、メゾン・ルイナールが所有するブドウ畑で長期間を過ごしたというムニーズ。そこで出会った最高醸造責任者のフレデリック・パナイオティスを通じ、人間と自然との関係性を見出したムニーズは、パナイオティスの手を主題に選び、作品を制作。黒く染めた木や木炭でブドウの木を表現した写真作品を生み出した。また映像作品にはシャルドネ種のブドウの葉を使うなど、ムニーズが抱く自然への敬意がそこかしこに感じられる。

展示風景
展示風景

 なお、KYOTOGRAPHIEではこの他にも3人のキューバ人写真家たちによる「『彼女、私、そして彼らについて』」キューバ:3人の写真家の人生と芸術」や、写真家集団「マグナム」の滞在制作プログラム「マグナム・ライブラボ」、昨年の「KG+ Award 2018」でグランプリを受賞した顧剣亨(こ・けんりょう)の「15972 sampling」など様々なプログラムを展開。

「『彼女、私、そして彼らについて』キューバ:3人の写真家の人生と芸術」より、アルベルト・コルダの展示風景
「『彼女、私、そして彼らについて』キューバ:3人の写真家の人生と芸術」より、ルネ・ペーニャの展示風景
顧剣亨「15972 sampling」の展示風景

 また、京都市内ではサテライトイベントとして2013年から行われている公募型プログラム「KG+」、そしてこの「KG+」の応募者から選出された12組の作家を紹介する「KG+SELECT」なども開催中。こちらも併せてチェックしてほしい。