8歳から作曲を始め、ポンピドゥ・センターの音響音楽研究員などのキャリアを持つ現代音楽家、ヤコポ・バボーニ・スキリンジによる展覧会「Bodyscore – the soul signature」が、東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールで始まった。
バボーニ・スキリンジは、オーケストラやアンサンブル、ソロのための作曲だけでなく、インスタレーションや映像作品のための音を制作。2007年からは、裸の人体に楽譜を書くという独自の手法を生み出し、いまではバボーニ・スキリンジを象徴するものとなっている。
この手法が生まれたきっかけは、バボーニ・スキリンジが2番目に手がけた弦楽四重奏だった。弦楽四重奏のリハーサルで、実際に演奏される曲を聴いたとき「その曲がまるで自分で書いたものではないような不満足を覚えた」のだという。「なぜそうなったのか? それは書く方法が変わったからです。それまでの手書き譜面からパソコンでの楽譜制作に変わったことで、自分が二進法の考え方をしていることに気づきました」。
「私の場合、コンピュータで楽譜を書くことは、手書きとはまったく違います。『現在』は時間の積み重ねでできていますが、コンピュータで(楽譜を)消したり戻したりすることは、その積み重ねが消えてしまうということです。書くことは聖なるものであり、書く対象とすべきは人間の身体。ですので2007年からはモデルをアトリエに招き、そこに楽譜を書くことで作曲をしています」。
楽譜が書かれるのは、人体の腕や足、胸、首、顔などあらゆる場所。モデルはすべて俳優や写真家などのアーティストたちが務め、あらかじめリストアップされた膨大なモデルたちのなかから、曲に応じてバボーニ・スキリンジがふさわしいと思うモデルを選ぶのだという。
また楽譜の場所にも注目したい。文字通り身体中に書かれた楽譜でも、とくに顔の楽譜が重要だとバボーニ・スキリンジは言う。
「顔が人間のアイデンティティをもっとも表す場所なので、その曲のもっとも深い箇所、真髄を顔に書くようにしています。デリケートな書き方をみてもらえれば」。
本展では、2016年から19年に書かれ、撮影された30点を展示。メインとなるのは、5番目の弦楽四十奏の作品だ。
展示室の中央に展示された4つの写真は、弦楽四重奏曲を構成するヴァイオリン(ファースト、セカンド)、ヴィオラ、チェロの楽譜となっており、それぞれの写真の前に立つと、そのパートの音楽が流れるインタラクティブな仕掛け。つまり、4点すべての前に人が立つことで初めてカルテットが響くことになる。
写真と音楽が融合したこの新たな試みを、ぜひ体験してほしい。