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NEWS / REPORT - 2019.6.17

展覧会だけじゃない。ヴァージル・アブローが仕掛ける次世代への取り組み「Re-Creation Center c/o Virgil Abloh」とは何か?

ファッション、デザイン、アート、建築、音楽と複数の分野にわたって活躍するヴァージル・アブロー。シカゴ現代美術館で開催中の個展「Figures of Speech」と並行して、シカゴのNikeLabで期間限定の「Re-Creation Center c/o Virgil Abloh」がオープンしている。アブローが手がけたこのポップアップで、スタッフにコンセプトについて話を聞いた。

文=國上直子

裁断されたスニーカーが壁面に掲げられている「Re-Creation Center c/o Virgil Abloh」

 シカゴ現代美術館で初の美術館個展「Figures of Speech」を開催中のヴァージル・アブロー。彼が展覧会と同時に仕掛けたプロジェクトが、シカゴのNikeLabを舞台とした「Re-Creation Center c/o Virgil Abloh」だ。「Re-Creation Center c/o Virgil Abloh」のテーマ「リサイクル」と「次世代の育成」のふたつ。商品の販売があまり前面に押し出されていない点が特徴となっている。

商品のライフサイクルを可視化する

 「Re-Creation Center c/o Virgil Abloh」の目的のひとつは、ナイキが進めているリサイクルプログラム「Reuse-a-Shoe」の周知。このプログラムでは、履き古したスニーカーを回収し、分解・裁断。「Nike Grind」という素材に加工し直し、様々な用途に再利用している。

一足リサイクルされるごとにカウンターの数字が増える

 店舗内では、このプログラムの流れがわかるよう、プレゼンテーション用のミニチュアリサイクル施設が設けられている。カウンターで不要になったスニーカーを寄付すると、スニーカーはコンベヤーに乗せられ、リサイクルコンテナに運ばれる。そこに靴が投入されると、コンテナ前面の大型モニターに表示されているリサイクル済みスニーカー数が1つ増える。

 リサイクル用に持ち込んだスニーカーをスキャンし、動画として保存できる装置もある。その動画はSNSでシェアすることが奨励されている。

リサイクルするスニーカーをスキャンするコーナー

 店内に置かれたマネキンやスツール、そして床には、リサイクルから生まれた素材「Nike Grind」が使用されている。アブローは2020年のNBAオールスターゲームに先駆けてオープンするこの地域のバスケットボールコートのデザインも担当し、ここにも「Nike Grind」が活用される予定だ。

店内のあらゆるところに「Nike Grind」が利用されている

クリエイティブ・メンターシッププログラム

 もうひとつのテーマは、地域の若者の育成。アブローは、シカゴの子供たちに、創作活動の魅力を伝えるために、グラフィックデザイン、写真、ファブリックデザイン、ブランディング、建築などの分野から専門家を招き、8週間にわたってワークショップを開催していく予定。

 プログラムは、アブローが参加する子供たちと、シカゴが世界の文化に与えたインパクトについて話し合うところからスタート。シカゴという場所を念頭に置き、若者のクリエイティビティの育成を促すという点は、シカゴ現代美術館での展覧会のテーマと共通している。

 店内には、作業用テーブルが用意され、画材や布など、創作活動に使える素材や道具が揃っており、来店者は自由に使うことができる。

ワークショップを行うエリア

限定商品も販売

 店内には商品も並べられており、それらの購入も可能。アブローの「Off-White」とNikeのコラボレーション商品なども並ぶが、人気が高く品薄状態だという。ちなみに来店時にあった商品はすべてこの店舗限定とのこと。期間中、販売商品や店内のデザインは、自在に変わっていくという。

 また、アブローがインスピレーションを受けた本やオブジェクトも、商品と並行して展示されている。

アブローがインスピレーションを受けたものが並ぶ

ヴァージル・アブローに染まるシカゴ

 企画の構想は約1年半前から。オープンはシカゴ現代美術館での個展とタイミングを合わせており、「アブローはシカゴでの大々的なイベントとしてこれらを同時に開催することを重要視していた」のだという。

 「Figures of Speech」の会期中、シカゴ市内はアブローがジャックする様相を呈す。ルイ・ヴィトンもアブローのポップアップを開店。市内の地下鉄には、アブローの個展を記念したラッピング・トレインが登場する。美術館、リテール、公共交通機関と縦横無尽に、その存在を知らしめるアブロー。いままで、こんなかたちで活動するアーティストがいたか考えてみるものの、すぐには思い浮かばない。

 シカゴ現代美術館での「Figures of Speech」展に併設されたポップアップには、「政教分離」を意味する「Church & State」という名前が付けられている。美術館という一種の聖域で、ラグジュアリーブランドの価格帯の商品を売るという、型破りな行為をやってのける自身への批判を見越した皮肉が込められているようだ。

入り口を抜けると大型スピーカーが出迎え、アブローが語るシカゴへの思いを聞くことができる

 「Re-Creation Center c/o Virgil Abloh」は、その裏返しのようにも見える。世界的ブランドの店舗を、コミュニティに自分の知識を還元する場に変えてしまっている。

 アブローを知らない人でも、展覧会の期間中はシカゴでアブローの名前を目にするだろう。「Figures of Speech」をはじめとする関連イベントは、彼の凱旋ツアーであるとともに、ロールモデルとして、シカゴの若者にモノづくりの魅力を伝えるために、周到に企画されてきたのだとわかる。利用できるシステムは最大限に活用し、目的を果たそうする彼の強い意志が感じられた。