遊女が履く高下駄から着想された代表作「ヒールレスシューズ」をはじめ、作品がニューヨークのメトロポリタン美術館やロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館などに所蔵されているアーティスト・舘鼻則孝。近年では「日本文化をリシンクする」をテーマとした個展を開催し、自身の作品と古来からある日本文化とのコラボレーションを試みてきた。
今回開催される「NORITAKA TATEHANA RETHINKー舘鼻則孝と香りの日本文化ー」は、そのシリーズ最新個展だ。
本展はまずその会場から注目したい。個展の舞台となるのは、東京・九段下の靖國神社至近に位置する旧山口萬吉邸。
同邸宅は1927年に建設された洋館だ。木子七郎によるスパニッシュ様式の意匠デザインを特徴としており、東京都の有形文化財に指定されている。これまで一般公開されることなく維持されてきたが、今回の個展で初めてその門戸が開かれた。
邸宅は地下1階から3階までの4層構造。舘鼻はすべてのフロアに作品を設置した。
代表作である「ヒールレスシューズ」のシリーズが展示されているのはもちろんだが、京都の香老舗・松栄堂とコラボレーションした本展では「源氏香の図」と呼ばれる紋様をモチーフとした新作群も発表している。
「源氏香の図」とは、数種の香をたき、その香の名を言い当てる「組香」の一種。
5種類の香を5本の縦線で表し、たかれる香を聞きながら5つのうちに同じ香があれば線の頭を横線で結び、正解数を競うもの。52あるパターンには『源氏物語』の全54帖のうち52帖の巻名が附されている。舘鼻はこの図形を独自に解釈し、立体作品《Woodcuts Series》として仕上げた。
また、同じく「源氏香の図」を蒔絵によって球体に描いた香炉《源氏香の図 蒔絵香炉》も本展のための新作だ。本展の中心的存在となっているこの作品は、石川県輪島市の伝統工芸士が仕上げを担当。和室の中で存在感を放っている。
このほか、松栄堂の松寿文庫から特別出展された資料展示や「聞香体験」を通して、現代に至るまでの日本文化における香りの軌跡をたどることができる。
館内にはほのかにお香の香りが漂う今回の展覧会。来館者を目だけでなく、鼻でも楽しませる工夫がそこにはある。歴史的建造物とともに、作品と香りを堪能したい。