東京のGINZA SIX内にあるギャラリー「THE CLUB」が、ニューヨークを拠点に活動するアマンダ・シュミットをゲストキュレーターに迎え「Defacement」展を開催。シュミットは、2017年に『タイム』誌の「パーソン・オブ・ザ・イヤー」の一人にも選ばれたいま注目の社会派キュレーターだ。
展覧会タイトルである「Defacement」とは、「汚す」などといった破壊的な行為/介入によって、意味を加える、あるいは上書きすることで、新たな価値を見出すことを指す。その理念の礎となっているのは、資本主義社会が引き起こした大量消費社会へのアンチテーゼだという。
本展でピックアップされているのは、ゲルハルト・リヒター、アンディ・ウォーホル、ルーカス・エージュミアン、リチャード・オルドリッチ、マリア・アイヒホルン、ニコラス・グアニーニ、スーザン・ハウ、ブルック・シュー、ジャクリーン・デ・ヨング、レイ・レーダレ、R・H・クエイトマン、ベティー・トンプキンズの12名。
いずれも、資本主義経済が引き起こした大量消費社会に反抗し、その後の芸術や社会理念に大きな影響を与えたアートグループ「シチュアシオニスト・インターナショナル」の理念を受け継いだ美術家たちだ。会場にも「破壊」「汚す」といったアプローチが表出した作品が並ぶ。
展示会場の中央には、ジャクリーン・デ・ヨングによる新作《The Shredded Fake-Simile》が象徴的に設置されている。デ・ヨングは、1950〜70年代、ヨーロッパで活動したグループ「シチュアシオニスト・インターナショナル」の元メンバーであり、「Defacement」の本来の意味を理解するにあたって、本展には欠かせないキーパーソンだ。
《The Shredded Fake-Simile》は、2012年刊行の『シチュオシオニスト・タイムズ』誌をシュレッダーにかけたもの。デ・ヨングは、過去に同誌が、活動と無関係の人物によって複製され、世間に販売されていたことへの不満をきっかけに、複製されたそれらの書籍を、完全に破壊する目的で購入したという。
いわば「死骸」のような素材を用いながらも、アートを通じて新たな価値を生み出すことに成功しており、シチュアシオニストが目指した「状況の構築」を成立させているように感じられる作品だ。
次にレイ・レーダレとベティー・トンプキンズによる作品を紹介する。レーダレとトンプキンズは両者ともに、最も神聖な存在とされる「母」を意図的に汚した作品を展開している。
レーダレは、自身の母親のヌード写真を子供たちに手渡し、その上に落書きをさせたシリーズを発表。そのいっぽうで、トンプキンズの作品制作のプロセスは、美術史を扱う書籍からティツィアーノの聖母マリアのページがカットし、聖母の体を世界中の女性から集めた主観的な宣誓書で覆い隠すというものだ。「母」を「汚す」というテーマで、アプローチの異なる2つの作品が並ぶ。
そのほか、ゲルハルト・リヒターの代表シリーズのひとつ《オーバー・ペインテッド・フォト》も見ることができる。展覧会を訪れている男女など、一見変哲もないスナップショットに乱暴に塗りつけられた油絵具は、足し算による破壊そのものだ。「現代美術の巨匠」として高い評価を得ると同時に、難解ともされてきたリヒターの活動が、「Defacement」というテーマの中では明快に映る。過去から現在を包括的にとらえたキュレーションスタイルが光る展覧会であった。