NEWS / REPORT - 2018.7.15

新潟の歴史と現代の表現を五感で楽しむ。
「水と土の芸術祭2018」が開幕

今年で4回目を迎えた新潟市の「水と土の芸術祭」が開幕。総合ディレクターを谷新が、アート・ディレクターを塩田純一が務め、「メガ・ブリッジ」をテーマに掲げた本芸術祭の見どころをお届けする。会期は10月8日まで。

展示風景より岩崎貴宏《untitled》(2018)

 2009年から始まり、3年に1回開催されている「水と土の芸術祭」は、海と川、そして肥沃な大地を誇る新潟が舞台の芸術祭だ。「私たちはどこから来て、どこへ行くのか 〜新潟の水と土から、過去と現在を見つめ、未来を考える〜」という継続した基本理念のもと、今回は「メガ・ブリッジ―つなぐ新潟、日本に、世界に―」をコンセプトに掲げている。

 水や土と共生してきた新潟の歴史を振り返りながら、未来へとつなぐ作家たちの作品が展示される「アートプロジェクト」を中心に、市民たちによる展示やワークショップなど80を超える様々な催しが行われる「市民プロジェクト」、作家と地元の小中学校の教員が協力した子供向け企画「こどもプロジェクト」、伝統芸能や市民参加型パフォーマンス、新潟の「食」を紹介する「にいがたJIMAN」、そして有識者を招いてのシンポジウムといった企画が80日を超える期間中に開催される。

 なかでも「アートプロジェクト」は、「地水火風の四元素とそれによって育まれる生命」と「環日本海」というふたつの柱を軸に展開。その見どころをエリアごとに見ていこう。 

万代島エリア

 万代島エリアには、大きなかまぼこ型の屋根をもつ通称「大かま」と呼ばれる建物がある。この建物を擁する「万代島多目的広場」が本芸術祭のメイン会場だ。

メイン会場の大かま

 まず目に飛び込んでくるのは、大西康明による白いシートのインスタレーション《untitled》と、松井紫朗による建物の外まで張り巡らされた、水色のチューブ状のトンネル《Soft Circuit》、そしてナウィン・ラワンチャイクンの油彩画《四季の便り》だ。

会場風景より左が大西康明《untitled》、右が松井紫朗《Soft Circuit》の入り口

 タイ出身で、現在はタイと日本を行き来しながら作品を制作しているナウィンは、本作制作のために新潟の人々にその歴史や文化、地理について取材を行ったという。《四季の便り》はそれをもとに、自然や人生を四季の移り変わりを重ね合わせた作品だ。ナウィンは映像作品も展示しているので合わせて注目したい。

展示風景よりナウィン・ラワンチャイクン《四季の便り》(2018)

 大西の軽やかな白いシートや、松井の涼しげな水色の巨大なチューブは、実際に中に入って鑑賞することができる。松井のチューブをたどっていくと、大かまに隣接している港が見えるほか、行き止まりであっても外から降り注ぐ明るい陽光を感じられるなど、ここだけの体験が得られるだろう。

松井紫朗《Soft Circuit》の内部の様子

 迷路のように四方に道が広がる松井のチューブの中を進むと、メイン会場の後半部分に到着し、伊藤公象の《地表の襞 eros&thanatosの迫間》や、塩田千春の《どこへ向かって》が来場者を出迎える。

展示風景より伊藤公象《地表の襞 eros&thanatosの迫間》(2018)
展示風景より塩田千春《どこへ向かって》(2018)

 この後半部分で注目したいのが、岩崎貴宏による《untitled》だ。壮大な風景を繊細な素材によってスケールダウンさせる岩崎が手がけたのは、小さな万代橋とその周りの風景。数度の災害に苛まれてきた歴史ある橋をモチーフにした本作は、実際の港を背景に、小さくとも堂々とした存在感を放っている。

展示風景より岩崎貴宏《untitled》(2018)

 また、遠藤利克《Trieb―地中の火》は、そのタイトルのとおり床のコンクリートに穴を空け、中で火を焚くという作品を発表。「四元素」をテーマに掲げている本芸術祭ならではの作品だ。

展示風景より遠藤利克《Trieb―地中の火》(2018)

 「大かま」の外にはバスを改築したショップがあるほか、森北伸の《耕す家 Cultivate house》も展示されている。こちらも合わせてチェックしたい。

バスを改装したショップ。芸術祭オリジナルグッズなどが購入できる。

砂丘エリア

 サテライト会場である砂丘エリアは、その会場となっている建物も含めてじっくりと楽しみたい。

サテライト会場のひとつ、旧齋藤家別邸の庭園

 まず、小学校を改築した「ゆいぽーと 新潟市芸術創造村・国際青少年センター」では、自身も新潟市で生まれ育ったという冨井大裕の作品に注目したい。見慣れた日用品を使用し、その日用品が元々もつ意味から逸脱させて意外性のある表現を生み出すことで知られる冨井は、そのいっぽうで単純化した人体像を粘土で制作。今回展示されている《粘土の為のコンポジション》ではテラコッタや石膏でできた人形の周囲に、海辺の松林のスケッチを配置し、松林と新潟に生きる人々をシンクロさせるという作品だ。

展示風景より冨井大裕《粘土の為のコンポジション》(2018)

 同じく新潟出身の阪田清子は《Landscape―水の緒》と題した立体作品を展示している。異国の言語が記された漂流物が打ち上げられる日本海から「対岸」について考えているという阪田は、漂着を受け入れる場であり、出発の場である港として巨大な樹を、そしてそこに出入りする小舟として小枝や流木を用いて作品とした。

展示風景より阪田清子《Landscape―水の緒》(2018)

 NSG美術館では、日本海を囲む国々の作家たちによる作品を展示。荒井経による《べろ藍の風景》に描かれる海や、ロシアの作家セルゲイ・ヴァセンキンの《ぼくは船長になる》など、様々な「海」を見ることができる。

展示風景よりNSG美術館2階の様子

 ほかにもこのエリアでは、砂丘館や旧齋藤家別邸、旧市長公舎 安吾 風の館といった歴史的建造物の会場にも足を伸ばしたい。

展示風景より古川知泉《Rain Tree(降り注ぐ恩寵)》(2018)

 砂丘館では、その部屋ごとに様々な作品が展示されており、空間と作品の静かな調和を楽しめるほか、庭には古川知泉による《Rain Tree(降り注ぐ恩寵)》が展示されており、庭からだけではなく二階からも作品を間近に見ることができる。

展示風景より青木野枝《立山 - 2018 / 砂丘館》(2018)
展示風景より池内晶子《Knotted Thread》(2018)

 また、同エリア内には新潟市美術館があり、屋外展示場にて古川と星野曉の作品を見ることができる。同館では「阿部展也」展が開催中だ。

展示風景より星野曉《再生/ コペルニカス以前の泥Ⅱ》(2018)

鳥屋野潟エリア

 鳥屋野潟エリアの会場である華やかな中国庭園と、伝統的な日本庭園が併設された天寿園。ここではまず、潘逸舟の作品に注目したい。

天寿園

 1987年生まれという若手作家の潘は中国・上海生まれで日本育ち。映像や絵画、インスタレーションなどを通して身体と風景の関係を可視化する作品を制作している。ここでは、そんな潘のインスタレーション《循環》や映像作品《波を掃除する人》、そして足つぼを踏みしめながら景色を眺められる体験型の作品《痛みを伴う散歩》といった作品を見ることができる。なお、潘の写真作品はNSG美術館にも展示されている。

展示風景より潘逸舟《循環》(2018)
展示風景より潘逸舟《波を掃除する人》(2018)

 また、同会場には折本立身の「STEP IN」シリーズも展示。スニーカーを履いた自身の足と、訪れた街の記録を同時に収めた写真作品の数々は、自由に国を越えていく姿そのものだ。国際的な緊張関係に晒されることもある新潟において、スニーカーと作者の姿は国境を越える自由さと力強さを伝えている。

展示風景より折本立身《STEP IN》シリーズ(1980〜)

パフォーマンスや食文化も見どころ

 芸術祭会期中は様々なイベントも開催される。なかでも注目したいのは、大友良英による「オーケストラNIIGATA!」や、マームとジプシー主催の藤田貴大によるワークショップと、その発表公演「mizugiwa」だ。これまでも各地で公演を行っている大友や藤田が、新潟の人々とともにどのようなパフォーマンスを見せるのか期待が集まる。

 ほかにも、新潟という日本有数の米どころであり、また日本酒の名所で開催されるということもあり、食に重点を置いているのも本芸術祭の魅力のひとつ。市長や新潟出身の作家たちも太鼓判を押す食文化に触れ、五感で新潟を楽しみたい。

 芸術祭開幕に際し、総合プロデューサーの谷新は、「新潟の地で育まれた人々の生命と文化を歴史的にたどるという作品が多く展示されています。ぜひ多くの方々にご覧いただきたい」とコメントを寄せた。

総合プロデューサーを務める谷新

 国内外の気鋭の作家たちによる作品や、地元の人々との交流を通じ、新潟の土地や歴史、そして様々な文化にも触れられる芸術祭だ。ぜひ時間をかけてゆっくりと楽しんでほしい。