日本が西洋から様々な文化を受け入れ、大きな変革を迎えた明治期。美術の世界でもそれは例外ではなく、日本人画家たちは西洋人から学んだ新しい技法で、自分たちの国の風景や暮らしを描いた。しかしこれらの作品の多くは外国人に求められ海外に渡り、長年の間眠っていた。そうした作品をコレクションとして蒐集し、日本に里帰りさせてきた実業家がいた。それが高野光正だ。
7月31日から横浜髙島屋ギャラリーで開催される展覧会「高野光正コレクション 発見された日本の風景」は、その高野のコレクションから約130点を紹介するものだ。
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高野光正は1939年名古屋市生まれ。父・時次は画家・浅井忠の水彩画73点を東京国立博物館へ一括寄贈したことで知られる人物だ。光正はニューヨークのクリスティーズで鹿子木孟郎の《上野不忍池》を落札したことをきっかけに、日本人作家の情報を現地の知人から入手しつつ作品を蒐集。アメリカで該当作品が少なくなると舞台を英国に移して蒐集を続けました。現在約700点にのぼるコレクションは、ほぼすべてがロンドンまたはアメリカで入手し日本への里帰りを果たした作品となっている。
本展は、明治の日本を舞台に、各地の風景や人々の暮らしぶりを描いた作品にフォーカスしたもの。近年、回顧展が繰り返し開催され、洋画のみならず版画も人気の吉田博や、日光で活動し、外国人からの評価も高かった五百城文哉、本展をきっかけに注目が集まっている笠木治郎吉など、個性豊かな画家たちの作品が集う。また本展は横浜髙島屋開店65周年を記念するものであり、横浜にゆかりの深い五姓田派、笠木治郎吉、渡辺豊洲らのほか、横浜近郊を描いた風景を特別に展示。高野光正コレクションとしては初公開となる作品も含まれる。
展示は「序章 明治洋画史を眺める」「第一章 明治の日本を行く」「第二章 人々の暮らしを見る」「第三章 花に満たされる」で構成。
序章は、西洋絵画との出会いによって日本の洋画がいかに発展したのかを見つめるもの。浮世絵の一派だった五姓田派が横浜に住んだ英国人の報道画家チャールズ・ワーグマンと出会い、有力な洋画家集団に成長したのはその一例だ。またアルフレッド・イーストら英国人の水彩画家たちも、日本人に多大な影響を与えた。明治後期の日本で水彩画と風景画が大流行した背景を、主要な画家の作品で振り返る。
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西洋からの旅行者たちは、聖地となっていた日光や富士山だけでなく、訪れた各地の何気ない風景に魅了された。また日本人画家たちも各地を旅して、見なれたはずの風景の美しさに気付き、絵を描いた。第一章は、新たな目をもった日本人画家たちが発見した、横浜を含む明治日本の風景画並ぶ。
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第二章は、人々の暮らしを描いた絵画が紹介される。日本を訪れた外国人たちにとって、人々の暮らしも興味の対象だった。その影響からか日本人画家たちも外国人に見せるかのように自国の風景や風俗を描くようになる。芝居小屋に集まる人々の賑わいや、提灯屋を営む一家の姿など、明治に生きた日本の人々の生き生きとした暮らしを、作品を通じて見つめたい。
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日本の花々や園芸も西洋から日本へ来た旅行者たちを魅了した。花に満たされた屋敷や寺社、街道、農家の庭などの風景に加え、花とともに生きる人の姿も数々の作品に描かれている。花にまつわる作品が、本展の締めくくりとして紹介される。
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なお、本展を通じて注目したいのが、横浜で活躍した幻の画家・笠木治郎吉だ。横浜で土産物の水彩画を描いていた笠木は、これまでほとんど知られていない画家でしたが、高野光正コレクションによって注目を集めるようになった。油彩と見間違うほど濃厚な彩色、緻密な描き込み、映画の一場面のようなドラマティックな表現を目撃してほしい。
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なお、本展では高野光正コレクションのなかから、2021年の京都国立近代美術館以降の巡回で展示されていない6点が初公開される。この貴重な機会をお見逃しなく。
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100年以上前にここ横浜を旅立った作品が里帰りする貴重な機会