日本橋高島屋S.C.本館8階ホールで、明治時代の外国人画家やその影響を受けた日本人画家による、風景画や人物画を紹介する展覧会「高野光正コレクション 発見された日本の風景」が開催される。会期は8月17日〜9月3日。なお、本展は大阪高島屋にも9月6日~9月25日の会期で巡回する。
明治時代、日本は西洋諸国から様々な文物や人々を迎え入れ、一大変革を経験した。美術の世界においても、日本を訪れた外国の画家たちは、西洋とは異なる日本の文化や自然に興味を抱き、その様子を描いた。そして、日本の画家たちは西洋から学んだ新しい技法で、自分たちの国の風景や暮らしを描いた。
こうした作品の多くは外国人に求められて海外に渡り、長年眠っていた。本展の出品作品はすべて、コレクターの高野光正が半生をかけて海外で収集し、日本へ里帰りを果たしたものだ。この類を見ないコレクションには、いまでは失われてしまった明治の日本の貴重な姿が残されている。本展を通して西洋人たちが驚きとともに発見した日本、また日本人が再発見した日本が提示される。
このコレクションを築いた高野光正とはどのような人物だったのだろうか。高野は1939年名古屋市生まれの実業家で、父の時次は画家・浅井忠の水彩画73点を東京国立博物館へ一括寄贈したことでも知られている。高野はニューヨークのクリスティーズで鹿子木孟郎の《上野不忍池》を落札したことをきっかけに、日本人作家の情報を現地の知人から入手しつつ作品を蒐集。アメリカで該当作品が少なくなると舞台を英国に移して蒐集を続けた。現在約700点にのぼるコレクションは、ほぼすべてロンドンまたはアメリカで入手し日本への里帰りを果たした作品だという。
展覧会は4章構成。序章「明治洋画史を眺める」では、日本と西洋との出会いによって発展を遂げた明治洋画史を展観する。
浮世絵の一派だった五姓田派が横浜に住んだ英国人の報道画家・ワーグマンと出会い、有力な洋画家集団に成長。また、アルフレッド・イーストら英国人の水彩画家たちは、日本人に多大な影響を与えた。彼らが日本各地を旅しながら制作した水彩画は、日本でも直ちに展示され、何の変哲もない風景を生き生きと表現したその新鮮な表現は、日本人青年画家たちに衝撃を与えたという。やがて明治後期の日本には、水彩画と風景画が大流行。展覧会のはじめとなる序章では、本展で紹介する作品がどのようにして描かれるようになったのか、主な作家とともに紹介する。
第1章「明治の日本を行く」は、西洋からの旅行者たちが日本の風景に魅了されて残した作品や、彼らの技法を学んだ日本人画家たちが自国の風景を描いた作品を紹介。
旅行者たちは聖地となっていた日光や富士山だけでなく、訪れた各地の何気ない風景に魅了された。また、西洋からの目線によって、日本人の画家たちも見なれたはずの風景の美しさに気づき、作品に残した。洋画の隆盛によって、それまでの名所とは異なる風景そのものの美が発見された過程を、当時の貴重な作品で見せる。
第2章「人々の暮らしを見る」は、明治に生きた人々の生き生きとした暮らしの様子を描いた作品を紹介。外国人たちは、日本の人々の暮らしにも興味を持った。その眼差しに感化されたためか、日本の画家たちも外国人に見せるかのように自国の風景や風俗を描くようになる。芝居小屋に集まる人々の賑わいや、提灯屋を営む一家の姿など、明治の暮らしを展観する。
第3章「花に満たされる」は、西洋から日本へ来た旅行者たちを魅了した日本の花々の美しさや園芸趣味にまつわる作品を紹介。花に満たされた屋敷や寺社、街道、農家の庭などの風景に加え、花とともに生きる人の姿を描いた作品によって、本展を締めくくる。
また特別展示として、幻の画家、J. Kasagiこと笠木治郎吉の作品を展示。横浜で土産物の水彩画を描いていた笠木治郎吉は、これまでほとんど知られていない画家だったが、高野光正コレクションが公開されると、その強烈な個性が話題となった。水彩でありながら油彩のような濃厚な彩色や、緻密な描き込み、映画の一場面のようなドラマチックな表現に注目したい。
西洋との邂逅から改めて「発見」された、明治日本の風景。唯一無二のコレクションで当時の空気を感じてみてはいかがだろうか。