認知の構造を視覚的に表現する3組のアーティスト。「ACT Vol. 6『メニスル』」展をTOKAS本郷で開催中

トーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)本郷が、いま注目すべき活動を行う作家を紹介する企画展シリーズ「ACT(Artists Contemporary TOKAS)」の第6弾を開催し、大庭孝文、菅雄嗣、ヨフといった3組のアーティストを紹介する。会期は3月24日まで。

展示風景より、大庭孝文の作品 撮影=加藤健

 東京・本郷のトーキョーアーツアンドスペース(TOKAS)で開催している、いま注目すべき活動を行う作家を紹介する企画展シリーズ「ACT(Artists Contemporary TOKAS)」。その第6弾として、大庭孝文、菅雄嗣、ヨフ(大原崇嘉、古澤龍、柳川智之)といった3組のアーティストによるグループ展「メニスル」が行われている。会期は3月24日まで。

 インターネットの普及やパンデミックの影響によってオンラインでの鑑賞機会が増えるなか、実際に作品と対面して鑑賞する機会が減ってきていると言える。しかし、作品の魅力が画面越しでは伝わりきらないことがあるのも事実だ。こうした背景を出発点にした本展では、作品と対峙することで、その技法や構造の違和に気づきをもたらし、認知の構造を視覚的に表現する3組のアーティストの作品を紹介する。

展示風景より、大庭孝文《正しい風景(犬が雷を怖がっている)》(部分、2023) 撮影=加藤健

 大庭孝文は、記憶と忘却という人間の認知構造について探求し、写真をもとに絵画を制作している。異なる複数の方法で「描く」と「消す」 を繰り返し行うことで、記憶の痕跡を複層的な風景として立ち上がらせる。本展では、実在しない記憶を実際に体験したと思い込む「過誤記憶」や、他者の記憶が自分のものになったかのように感じる「記憶の流用」に主眼を置き、新しいアプローチをもった作品を展示する。

 菅雄嗣は、ウレタン塗装で鏡面のように施した画面に絵具を均一に載せたのち、一部の絵具を刮いで描いたり、その削り取った絵具で対になる作品を描いたりすることで、筆致の身体性や絵具そのものの物質感が放つ絵画性を探究している。本展では、境界を意味する「liminal(リミナル)」をテーマに、絵画作品と普段制作のモチーフとしているCGモデルを展示構成に加え、菅にとって初めてのインスタレーション作品を発表する。

展示風景より、菅雄嗣の作品 撮影=加藤健
展示風景より、菅雄嗣《Stilllife_TOKAS 3F #1》(2024) 撮影=加藤健

 大原崇嘉、古澤龍、柳川智之の3人によるアーティスト・コレクティブであるヨフは、視覚メディアにおける色彩、空間などの研究や実践を通し、特殊な照明や空間構成の相互作用により、色の現出をコントロールし、新たな視覚体験を生み出している。本展では、現実と仮想空間との「接続」を試みるいっぽうで、デジタルイメージにおいて唐突に「切り抜き/貼り付け」られた画像のように、対象と周囲の環境との視覚的な「遮断」を実空間で実現させるといった双方向的なアプローチから、現在におけるリアリティや実在性を考察している。

展示風景より、ヨフ《Lights》(2023) 撮影=加藤健
展示風景より、ヨフの作品 撮影=加藤健

 本展のタイトル「メニスル」は、一見記号化された文字列のようだが、その音を意識すると「目にする」という単語となり、同時に「実際に見る」というその意味自体も飛び込んでくる。それぞれのアプローチをもち、認知の構造を探求する3組の実践、そして新たな表現に挑戦した展示空間をぜひ会場で堪能してほしい。

編集部

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