栃木・宇都宮の宇都宮美術館で「芸術家たちの南仏」が開催されている。会期は9月24日まで。
本展は30人におよぶ作家の作品や資料等およそ150点を通じて、19世紀末から20世紀にかけての南フランスにおけるモダン・アートの展開を紹介するもの。パリの喧騒から離れた穏やかな場所で交流し、協働し、競い合った芸術家たちの活動の痕跡をたどる。出展作家はジャン・アルプ、ハンス・ベルメール、ポール・セザンヌ、マルク・シャガール、ソニア・ドローネー、ラウル・デュフィ、マックス・エルンスト、フェルナン・レジェ、アンリ・マティス、パブロ・ピカソ、ヴォルスほか。
19世紀末以降、観光客の目的地として栄えていくなか、南仏の地は芸術家たちにとっても重要な場所となっていった。19世紀後半の鉄道網の発達によって首都パリから南仏へアクセスしやすくなると、美しい自然とまばゆい陽光に誘われ、 多くの人々と同様に芸術家たちも南仏へと向かった。
そこにはポール・セザンヌをはじめとする印象派やポスト印象派の画家たちのゆかりの地も見られ、すでに伝説となりつつあった彼らへのあこがれも、若い芸術家たちを南へと向かわせたという。本展ではこの時期の、前衛からアカデミズムまで多種多様な芸術家たちが模索しながら制作した挑戦的な作品を展示する。
旅行者たちの憧れの地としてのみならず、激動の20世紀の戦禍の中においても、南仏は新たな芸術を生み出す土地となった。第二次世界大戦が始まると、フランスにいたドイツ人たちは「敵性外国人」として収容所に集められた。ドイツ出身の芸術家の中には、南仏 のレ・ミル収容所に収容された者たちもいた。
また、南仏から国外への亡命を考え、ビザの発行をマルセイユで待っていた芸術家たちや、グラースに集まった芸術家たちもいた。 戦禍により否応なくたどり着いた南仏の地 で受けた刺激や、そこでの共同制作から生まれた作品にも注目したい。
戦後になると何人もの芸術家が南仏にアトリエを構え、伝統的な技法を用いる職人たちとの協働の試みや、壁画や建築装飾などの大規模な制作が行われた。
南フランスに接して広がる紺碧の地中海も、ギリシャ・ローマの文明やキリスト教など豊かな文化をこの地へともたらした。ピカソやシャガールをはじめ、多くの芸術家たちの作品には、地中海文明を感じさせるモチーフがいくつも登場する。また、 陶芸作品のように、彼らが南仏の地の伝統を受け継ぐ職人たちとの協働によって制作した作品からは、南仏に根づく文化の豊かさが伝わってくる。
南仏に焦点を当て、近代の西洋絵画の系譜を体感できる本展。美術の初心者から、より深く知りたい人まで、多くの人に刺激を与えてくれそうな展覧会だ。