アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門でその年の優れた作品を顕彰し、展示等の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合祭「文化庁メディア芸術祭」。1997年度の初開催以来、優れたメディア芸術作品を顕彰するとともに、受賞作品の展示や上映、シンポジウム等の関連イベントを実施してきた本祭が今年25周年を迎える。
これを記念しこれまでの受賞作品のなかからメディア芸術の未来を切り開いてきた作品を展示する企画展「AUDIBEL SENSES」が、表参道ヒルズの「スペース オー」で3月8日〜13日に開催された。「音」をテーマに、7名(組)の作家による過去の受賞作品をセレクトし展示したあ会場の様子を、レポートでお伝えする。
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まず、会場入口では「文化庁メディア芸術祭」の24年の歴史を振り返るパネル展示に注目したい。パネルには1997年度から昨年にいたるまでの受賞作品が記されており、各年のメディア芸術を代表する作品を見るができる。各時代に合わせて新たな表現に光を当ててきた、同祭の歴史を感じられるはずだ。
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会場に歩を進めると、7つの作品が来場者を迎える。まずは、メディアアートの制作からインダストリアルデザインまで、幅広く手がけている制作者集団・plaplaxによる《KAGE-table》を紹介したい。本作は1997年の第1回でデジタルアート(インタラクティブ)部門の大賞を受賞した《KAGE》を発展させた作品で、円錐型のオブジェを触ることにより、その影がかたちや色を変えて動き出す。普段は意識することが少ない影という存在を、技術によって意識させる作品だ。
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2011年の第15回でエンターテイメント部門の新人賞を受賞した、演奏家でありメディア・アーティストの成瀬つばさ《リズムシ》は、ボタンを押すと鉛筆のタッチで描かれた「オトムシ」というキャラクターが音に合わせて動き出すiPhoneのアプリケーション。スケッチを画面に描き音を鳴らせる《オトスケッチ》や、ラップとDJが楽しめる《ラップムシ》など関連作品も会場では触って楽しむことが可能となっている。音を制御するリズムマシンを、鉛筆で描かれた「ゆるい」ビジュアルでつくる新鮮さを感じてほしい。
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アーティスト/ミュージシャンの和田永による《時折織成 -Weaving Records-》は、台の上に置かれたオープンリール式のテープレコーダーが、磁気テープをアクリルの容器内に落とすことで、独特の模様を出現させていく作品。第17回(2013)のアート部門で審査員委員会推薦作品に選ばれた。容器のなかにある程度テープが貯まると、楽曲を再生しながらテープが高速で巻き上げられ、模様が消滅。そしてふたたび磁気テープが落とされていく。シンプルなリール式のレコーダーに、視覚と聴覚の観点から新たな役割を与えるその手つきはいまなお新鮮だ。
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第18回のエンターテインメント部門で新人賞を受賞した佐々木有美+ドリタ。彼らが制作した《Bug's Beat》は、小さな虫のたてる音をスピーカーと振動によって体感できる作品だ。イスに座ると、眼の前のアクリルの中に入っている虫たちの小さな足音が増幅され、座面の揺れとともに伝わってくる。極小の世界に感覚器官を通じて入り込めるような作品といえるだろう。
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Marc FLURY / Brian GIBSON《Thumper》は2015年の第19回で、エンターテイメント部門の優秀賞に選ばれた作品。音のバーに合わせてリズムを操作するリズムアクションゲームに、スピード感と身体感覚を結合させた本作。VRゴーグルをつけて「宇宙甲虫」を操作し、障害物を避けながら怪物を倒していく。独自のアルゴリズムでつくられた音響と映像に没入させることで、終わりなく続く異世界での荒々しい体験が強い印象を残す。
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2015年の第19回でエンターテイメント部門の優秀賞に輝いた、Jesse RINGROSE / Jason ENNISの《Dark Echo》。暗闇のなかでプレイするこの作品は、プレイヤーが発した足音の反響を頼りに、魔物の立てる音に警戒しつつ、パズルを解くことでゴールを目指していくゲームだ。視覚でなく聴覚を研ぎ澄ませながら、目に見えない恐怖と対峙する体験はまったく新しい感覚をプレイヤーに与える。
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坂本龍一/真鍋大度による《センシング・ストリームズ 2022 - 不可視、不可聴》は2014年の第18回でアート部門の優秀賞に選ばれた作品を本展に合わせてアップデートして展示。人間が知覚できない電磁波を感知し、可視化・可聴化するインスタレーション作品で、会場内に設置されたアンテナが電磁波を収集し、大型のディスプレイとスピーカーでデータを可視化。鑑賞者はコントローラーで周波数を変えることで、絶え間なく変化するヴィジュアルをとらえることができる。スマートフォンからラジオ放送まで、様々な電磁波が身の回りに溢れていることを、壮大なスケールで感じさせてくれる。
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また、会場では文化庁が主催する「メディア芸術クリエイター育成支援事業」の「国内クリエイター創作支援プログラム」に採択された8組のクリエイターの作品制作の成果と、「キュレーター等海外派遣プログラム」の研修成果も紹介。次なる制作活動に挑むクリエイターたちの活動を見ることができる。
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なお、3月13日には第25回となる「文化庁メディア芸術祭」の受賞作品も発表された。
アート部門の大賞には、anno lab(代表:藤岡定)と西岡美紀/小島佳子/的場寛/堀尾寛太/新美太基/中村優一によるインタラクティブ・アート《太陽と月の部屋》が選出。自然と触れ合い身体性を拡張することをテーマに、大分・豊後高田市の「不均質な自然と人の美術館」につくられた本作は、来場者が部屋のなかを歩くと天井の小窓が自動で開閉し、体が光に包まれるとともに、足もとの日だまりが小窓の開閉によって月が満ち欠けするようにかたちを変えていく作品だ。人工的な光ではなく自然光を鑑賞者に届けることで、光が持つ温もりをも感じさせ、体験する者の感覚と意識を研ぎ澄ませるようになっている。
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また優秀賞には、任天堂の発売したゲーム『あつまれ どうぶつの森』(2020)を模して、展示空間で実在の人間を操る山内祥太のパフォーマンス《あつまるな!やまひょうと森》など4作品が選出。
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加えて、ソーシャルインパクト賞には、田中浩也研究室+METACITY(代表:青木 竜太)の《Bio Sculpture》が選ばた。3Dプリンターによって出力された構造と自然素材を組み合わせた「環境マテリアル」によって微生物の生態系をコントロールする本作は、微生物環境の変動を含めた長期的なセンシングを実現する意欲的な作品だ。
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25年の歴史のなかで、新たなメディア表現を取り上げてきた「文化庁メディア芸術祭」。これからも、同祭が光を当てる次世代の表現者たちの活躍に期待したい。