東京・天王洲のTERRADA ART COMPLEXⅡに新たなギャラリー「MU GALLERY(エムユーギャラリー)」がオープンする。こけら落としは若手アーティストの奥天昌樹・にいみひろきの二人展「HASSHIN」。会期は7月16日~8月14日。
展覧会名となっている「HASSHIN」は、コンテンポラリーアートを展示する「MU GALLERY」のスタートとしての「発進」と、奥天昌樹、にいみひろきという若手アーティストの作品を発表する「発信」を掛けたものだ。
奥天昌樹は美術史によって解釈される範囲よりも、広く普遍的な感覚で人々が触れることのできる表現に取り組んできた。変形した作品は異物のような存在感と物質感を与え、鑑賞者が矩形のフィールドから解放された絵画空間に飛び込むことを可能にする役割も担っている。
5歳未満の幼児の落書きに原始的な線を感じた奥天は、幼児期の他者の落書きを存置し、マスキングをして絵の具の階層を貫く白い線として表出させる作品を制作。この手法について奥天は「描画材が生まれる前の線の成り立ちは、わだちや傷のようなものであり、線というのは凹凸をもっているのが自然である」と語っている。
奥天の作品は人物の気配だけが焼きつけられた不在のポートレートのようでもあり、これは画面に描いた他者の痕跡を純度の高い状態で見てもらいたいという姿勢の現れだ。一連の制作を通じて、奥天は自身の存在を作品から消していくアプローチをしているが、いっぽうでどこか生きた痕跡や気配も漂わせている。
にいみひろきは「デジタル=不自由、アナログ=自由」の定義を行い、デジタルの世界をアナログに落とし込むアートワークを展開。絵画を通じて「クリエイティビティ」の生産と消費を急速なスパンで繰り返す、今日のデジタル化された社会の状況を批判的に考察している。
にいみはウェブやSNSにおいて使用され、放置されたデジタル広告をはじめとするクリエイティブ・イメージを象徴的に引用しつつ、それらの断片を絵画というアナログなメディアに再構築する作家だ。
その制作の根底には、浪費され廃棄されていく人間の創造力と、その状況に対する痛烈な批判精神が横たわっており、作品化のプロセスにおいて、徹底して物象性にこだわっている。消費が前提となっている素材を物質に変換し、自らの視点を織り交ぜることで、新しい視覚言語として提示する。
新たにオープンするギャラリーで行われる二人展。それぞれの新規的な表現に、いち早く触れてみてはいかがだろうか。