インド宮廷絵画を体系化した日本初の展覧会が開かれる。日本画家でインド美術研究者の畠中光享が半世紀近くの歳月をかけて収集した700点以上のなかからから選りぬきの作品が展示される。
ムガール帝国代皇帝アクバルは「アッラーの神のみが創造者であり、人間や動植物など、命や感情のある絵を描いてはいけない」というイスラムの教えを、いくら生きたように描いても実際の生き物は想像できない、と逆手に取り、巨大な画工房で肖像画や物語を描かせた。彼はヒンドゥー教やキリスト教にも寛容で、西洋絵画の自然主義的陰影法を取り入れた。
つぎの皇帝ジャハンギール、シャージャハンの頃になると元来の美しい描線や色彩が加わり、ムガール絵画は絶頂期を迎える。しかし6代皇帝オーランガゼブは、イスラム教の教えに厳格なスンニー派に転換し、工房は解体された。有能なムガールの画家はラージプトの多くの藩主国に迎え入れられ、各藩主国独自の表現を生み出し、インド宮廷絵画の華が開いた。
本展では初期の細密画、ムガール絵画、そしてラージプト絵画の50以上の地域や流派を解き明かす。インドでは「絵はひとりの人との対話」であり、テーマとともに画家たちの高い精神性が描き込まれる。心血の注がれた微細な描写力に宿る「心の姿」に触れてみたい。