「Hidden Senses」から「Affinity in Autonomy」へ
人とロボティクスはいかにして共生できるのかーーそんな問いに、最先端のテクノロジーで挑んだソニーの展覧会「Affinity in Autonomy <共生するロボティクス>」が、イタリア・ミラノの「ミラノデザインウィーク」で行われた。
ミラノデザインウィークは、世界最大規模のデザインの祭典。ミラノ全体を巻き込んだこのイベントで、ソニーの展示会場となったのは、トルトーナ地区にあるSpazio Zegnaだ。
昨年、ソニーはミラノサローネに8年ぶりに出展。日常の中に潜む様々な感覚をテーマにした「Hidden Senses」で大きな注目を集めた。この成功を踏まえて開催されたのが、今年の「Affinity in Autonomy <共生するロボティクス>」だ。
本展は、人とロボティクスが共生する新しい関係を、「Awakening<意識>」「Autonomous<自律>」「Accordance<協調>」「Affiliation<共生>」「Association<連帯>」という5つのキーワードに基づいたセクションで提示するものだ。まずはこの内容から紹介しよう。
冒頭を飾る「Awakening<意識>」は暗闇の空間。壁一面にディスプレイが設置され、そこには有機的なフォルムの「点」がふわふわと漂っている。来場者が近づくとその光は反応し、様々に形を変えていく。ソニー独自の技術による立体的な音響効果も加わり、視覚と聴覚の両方の体験ができた。 暗闇にもかかわらず「認識されている」という感覚を抱かせる空間だ。
続く「Autonomous<自律>」では、仄暗い空間にふたつの鳥かごのような球体が浮かぶ。その中に入っているのは、先端から虹色の光を放つ二重振り子型のロボティクス。普段は物理法則に基づき動くこのロボティクスは、人が近づくとそれを検知し動きを変える。この様子をうかがうような仕草は、まるでロボティクスが生命を宿したかのようだ。
広々とした空間に転がるいくつもの白い球体。「Accordance<協調>」で来場者は1対1のロボティクスとの関係以上の体験をしたに違いない。特定の場所に座ると、コロコロと群れをなして近寄ってくるロボティクスたち。また人がいないときでもロボティクス同士で集団を形成していたりと、(真っ白な形状にもかかわらず)その姿からは表情が読み取れるようだ。ロボティクスと人はどのようなコミュニティをつくり出すのか。そんな未来のコミュニティに思いを馳せるきっかけを提示していた。
そして多くの来場者の足を長時間引き止めていたのが、「Affiliation<共生>」で元気な姿を見せたaibo(アイボ)だ。1999年に誕生し、2018年に進化した人工知能を搭載した新たな姿で再登場した。喜びや怒りといった人間さながらの感情を持ったaibo。この展示ではその感情がグラフィックとして視覚化され、aiboの感情の繊細な変化を見ることができた。撫でれば喜び、叩けば怒る。ロボティクスが感情を持ったとき、人間はどう向き合うべきなのかという問いがそこにはある。
最後の「Association<連帯>」ではキューブ型のアンケートロボティクスが登場。人を感知し、「アンケートを書いてほしい」とお願いするかのように近寄ってくる。通常、能動的に行うアンケートという行為が受動的なものに変わるため、回答率も高くなるだろう。ロボティクスがインフラとして社会に実装されたときのイメージが湧くようなエンディングとなった。
なぜソニーはミラノデザインウィークに出展するのか?
ミラノデザインウィークには世界各国からいくつもの大企業が参加し、それぞれ趣向を凝らした展示を行なったが、ソニーの展示はそのなかでも非常にテーマ性を強く打ち出した展示だったと言えるだろう。
この展覧会をディレクションしたのが、ソニー (株)クリエイティブセンターでチーフアートディレクターを務める石井大輔だ。石井はaiboや、モバイル事業領域のプロダクト、インターフェース、コミュニケーションデザインをディレクションしてきた。
なぜソニーはこのミラノデザインウィークに出展するのか? その意義について石井はこう語る。「今年はaibo発売から20周年であり、また新しいaiboの登場から1年が経ったこともあり、様々なフィードバックが蓄積してきました。そういうタイミングで、ミラノデザインウィークという最大のクリエイティブイベントにおいて、ソニーのAIロボティクスがこれからどういったヴィジョンを掲げていくのかということを『ソニーのデザイン』という観点から発信していきたかったのです」。
展示で体験する、ロボティクスと人の関係性の変化
そんなヴィジョンを体現するために重要なのが、展示デザインだ。エントランスの巨大ガラスは偏光フィルムで覆われ、鮮やかな色に道行く人々がスマートフォンを向ける。この鮮やかに混ざりあった色は、会場内でも随所に現れていた。今回、ソニー (株)クリエイティブセンターでシニアアートディレクターを務め、本展示全体のコミュニケーションデザインを担当した前坂大吾はこの「色」についてこう話す。「いままでロボティクスと人間の間には、なんらかのボーダーがありました。でもこの展示を体験することによって、その関係が混ざり合う。そんな様子を有機的に混ざり合う色で表現しています」。
また展示室も、暗い場所から明るい場所へ、あるいは一方的なセンシングからロボティクスとのコミュニケーションへ、という明確な流れが見て取れる構成となった。前坂は言う。「ロボティクスと人間の新しい関係性がだんだん深まっていく。そんなストーリーを目指したんです」。
このロボティクスと人間との関係性について、目指す姿とはどのようなものなのか? 石井は「ロボティクスは恐怖ではなく、生活の一部になりうるもの。対峙するものではなく、共生するものなのです」と話す。「ロボティクスは日常を豊かにしてくれる存在。ソニーはそういう社会を目指しているのだということを感じてもらえたらいいなと思います」。
今回のミラノデザインウィークでソニーが提示したロボティクスたちは、どれもどこかに「遊び」があった。便利さや効率を追い求めるためだけのロボティクスではなく、人と共に豊かな生活を生み出すロボティクスとは何か。ロボティクスやAIの存在感が目に見えて高まりつつある現代だからこそ、この問いかけは重要なものだろう。
石井はこれからの展開について、最後にこう語る。「もっと色々なチャレンジの可能性があると思います。来年、あるいは再来年に向けて、また違う見せ方を考えていきたいですね」。ソニーが描くロボティクスと人の共生の姿。次のミラノデザインウィークではいったいどのような提案を見せてくれるだろうか。