100パーセント落札、その背景にある価格戦略
全作品が落札されたとはいえ、個々の結果を見ると、価格に対する慎重さもうかがえる。
そのひとつが、セール前のハイライトとして紹介されていたゲルハルト・リヒター《Abstraktes Bild》(1991)だ。3800万香港ドルの最低予想落札価格に対し、ハンマープライスは2800万香港ドルにとどまり、手数料込み3506万香港ドル(約7億300万円)で落札された。草間の《A-Pumpkin (YHP)》も、前述の通りハンマープライスでは最低予想落札価格に届いていない。

こうした状況からは、買い手側の需要だけでなく、質の高い高額作品をいかに市場へ呼び込むかという課題も見えてくる。
セール前の取材でユーは、現在の大きな課題のひとつとして、質の高い作品の出品をいかに促すかという点を挙げた。これはクリスティーズだけでなく、世界のオークション市場に共通する課題だという。高額作品の売却は市場環境だけでなく、所有者の作品への愛着や保有期間、相続、転居といった個人的な事情にも左右されると説明した。
これに対してユーが強調したのは、単純に1点の超高額作品を追うのではなく、「それぞれの価格帯、作家、時代における最良の作品」を集めるという方針だ。今季は個々の作品の評価額が過去のシーズンほど高くないものの、バスキアや草間など、それぞれの価格帯で競争力のある作品を揃えたと説明。アジアのコレクターについても、質の高い作品に対する需要は依然として強いとの認識を示した。
「1億香港ドル超」不在のなか、平均価格をどう高めるか
この方針は、セール後のクリスティーズ側の説明にも表れている。同社アジアパシフィック20/21世紀美術部門責任者のエイダ・ツイは美術手帖の取材に対し、今年は1億香港ドルを超える作品こそなかったものの、5000万香港ドルを超える作品が複数あったことに着目。突出した1点に総額を依存するのではなく、作品全体の平均的な価格水準を高めることで、市場変動に対するリスクを抑える考えを示した。
高額な一点に牽引されるのではなく、より多くの作品を適切な価格帯で成約させる──100パーセントの落札率と前年同期比28パーセント増という今回の結果は、市場の調整が続くなかで、オークションハウス側の戦略にも変化が生じていることを示すものとなった。



















