ルイーズ・ブルジョワのもっとも象徴的なモチーフである蜘蛛の彫刻《Spider》(1996)が、5月18日にサザビーズ・ニューヨークのコンテンポラリー・イヴニングセールで競売される。
蜘蛛のモチーフは、ブルジョワにとってタペストリー職人だった母親の代役として表現されている。1932年の母の死はブルジョワの芸術活動全体に影響を与え、蜘蛛の繊細な脚と針のような形態は亡き母を偲ばせるものだ。手強い捕食者であり獰猛な保護者でもある蜘蛛は、自身も母性を経験したブルジョワにとって母性に対する複雑な感情を表し、自己と普遍、養育と破壊、愛と放棄といった二元性を反映している。
こうしたブルジョワの蜘蛛の彫刻は、東京の六本木ヒルズの《ママン》をはじめ、ビルバオ・グッゲンハイム美術館やテート・モダン、サンフランシスコ近代美術館、Dia Beacon、ワシントンのナショナル・ギャラリーなどのコレクションに所蔵されている。
今回の出品作品は、1996年の第23回サンパウロ・ビエンナーレでサロンに展示された際にサンパウロの「イタウ財団」(Fundação Itaú)によって購入されたもの。以降、25年以上にわたり同財団のコレクションに収蔵されており、今回はオークションへの初出品となる。1997年から2017年までサンパウロ近代美術館に貸し出されていたほか、イニョチン美術館やイベレ・カマルゴ財団、リオデジャネイロ美術館など、ブラジル国内の機関でも広く展示されてきた。
作品販売による収益は、ブラジルの文化、教育、健康への取り組みを目的とする非営利文化機関「イタウ・カルチュラル」(Itaú Cultural)の体制と継続性の強化に充てられるという。
ブルジョワの蜘蛛の彫刻はこれまでオークションに3点しか出品されていない。本作は、高さ3メートル以上、幅約5.5メートルの大きさを有しており、ブルジョワの作品としては過去最高となる3000万ドル〜4000万ドル(約40億5000万円〜54億円)の予想落札額だ。予想範囲内で落札されれば、2019年5月にクリスティーズ・ニューヨークにおいてハンマープライス2800万ドル(手数料込み3210万ドル)で落札された1996年の作品の記録を上回り、アーティストのオークションレコードを更新することが予想される。
なお、5月16日から19日にかけてサザビーズ・ニューヨークでは一連のイヴニングセールとデイセールが開催予定。合計予想落札額は10億ドル(約1350億円)を超えている。
ブルジョワの《Spider》が出品される18日のコンテンポラリー・イヴニングセールには、3000万ドル以上(約40億4500万円)と推定されるジャン=ミシェル・バスキアの大作《Now's the Time》(1985)も登場。16日には、ワーナー・ブラザーズ・レコードの元会長兼CEOであるモー・オースティンのコレクションから33点の作品が競売され、その後に行われるモダン・イヴニングセールには、ルーベンスによる肖像画《マルス神としての男》(予想落札価格2000万〜3000万ドル)が、4500万ドル(約60億7200万円)以上を見積もるクリムトの風景画をはじめ、ファン・ゴッホ、モネ、ピカソ、ジャコメッティらの傑作とともに出品される。
また、新進気鋭の作家を中心に紹介する「ザ・ナウ」イヴニングセールは18日に開催され、1200万ドル〜1800万ドル(約16億2000万円〜24億2900万円)と予想される奈良美智の《Haze Days》(1998)のほか、ポーシャ・ズババヘラやルイーズ・ボネ、ジデカ・アクーニーリ・クロスビー、マリア・ベリオなどの女性作家の作品も出品される。
毎年注目を集める大手オークションハウスのスプリングセール。サザビーズはどこまで数字を伸ばすのか、注目したい。