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2020.11.21

単一の都市では世界最大規模。ニューヨークの美術品市場の現状とは?

アートマーケットのスペシャリストであるクレア・マカンドリューが中心となり、ニューヨークの美術品市場に関する初のレポート「The New York Art Market Report」を発表した。

出典=「The New York Art Market Report」
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 世界美術品市場を分析するレポート「The Art Basel and UBS Global Art Market Report」の著者でアーツ・エコノミックズの創設者であるクレア・マカンドリューによる、ニューヨークの美術品市場に関する初のレポート「The New York Art Market Report」が発表された。

 本レポートは、アメリカの「インデペンデント・アートフェア」と美術品の保管・物流会社「クロジエ・ファイン・アーツ」と共同で行われたもの。共同著者には、ポール・コス、ジョン・カーヒル、ジョナサン・オルソフ、パメラ・グルットマンが参加している。現代美術市場のハブとしてのニューヨークの固有の強みや市場の回復能力を継続的に評価することを目的に、1000人以上のコレクターやアートアドバイザーを対象に調査を実施した。

アメリカの美術市場ではニューヨークが圧倒

出典=「The New York Art Market Report」

 2019年の世界美術品市場の規模は推計641億ドル(約6兆7500億円)で、アメリカのシェアはそのうち44パーセントを占める世界最大の美術市場となっているが、このレポートではアメリカ国内市場における売上の90パーセントをニューヨークが占めていることが示された。また、昨年アメリカで開催された80のアートフェアのうち、40パーセント以上はニューヨークで行われたという。

 ニューヨークには、世界最大級のオークションハウスであるクリスティーズやサザビーズの本拠地が存在する。アメリカのアーティストエステートや財団も、うち約60パーセントがニューヨークに拠点を置いており、現存アーティストにとっても重要な「アートの首都」となっている。

 そしてニューヨークは、アメリカの美術品の輸出入においても重要な役割を果たしている。1996年〜2019年のアメリカにおける美術品の輸入額の71パーセント、輸出額の79パーセント、そして同期間の国内および州間の輸出額の76パーセントを占めている。ニューヨークが国際的な美術品取引の中心地であると同時に、アメリカ国内で取引される作品の主要な市場でもあるということが明らかにされている。

コレクターの世代によって年間支出額が異なる

出典=「The New York Art Market Report」

 このレポートによると、ニューヨークのコレクターは年間平均75万9000ドル(約7900万円)を美術品に費やしているという。年齢別に見ると、サイレント世代(1930~45年生まれ)のコレクターは年間340万ドルでもっとも多くの資金を美術品に支出。それに対し、ジェネレーションXやブーマー世代のコレクターの年間支出額は約60万ドル、ミレニアル世代では約4万5500ドルという数字になる。

 世代が若くなるにつれ支出額は下がるものの、ミレニアル世代のコレクターは若手アーティストの作品への支援にもっとも注力しており、コレクションに占める若手アーティストの割合は66パーセントと高い数字を示しているのが特徴だ。また、同世代のコレクターは、アート市場における平等や貧困など問題に対しても、強い関心を抱いているという。

 また、美術品の購入チャンネル別に見ると、ニューヨークのコレクターの76パーセントは、つねにまたは頻繁にギャラリーやディーラーを通じて作品を購入。また、96パーセントはアートフェアで作品を購入した経験があり、43パーセントはつねにまたは頻繁にアートフェアで作品を購入している。

 アートフェアの開催中止を受けて立ち上がったオンライン・ビューイング・ルームに対しては、ニューヨークのコレクターの90パーセントが閲覧したことがあるが、作品を購入したのはわずか22パーセントのみ。それに対し、ニューヨークのコレクターでオンラインでの購入経験がない割合は26パーセントと数字が逆転する。

アートアドバイザーの重要性

出典=「The New York Art Market Report」

 今回の調査では、ニューヨークのアートアドバイザーが美術品の販売における重要性も明らかにされた。

 ニューヨークを拠点とするアートアドバイザーは19年、平均45人のクライアントと仕事をしており、3300万ドルにおよぶ作品の販売・購入をうながした。これらのアドバイザーは、年間平均33のギャラリーと関わっており、これらのギャラリーから年間平均27点の作品を直接購入・販売している。

 クレア・マカンドリューは本レポートについて、「ニューヨークは、世界でもっとも強力なコレクター、専門家、機関のネットワークを持つ、現代美術品市場において歴史のある中心地に位置している。比較的自由な取引制度が、国際的な買い手と売り手のための世界最大のハブとしての地位を維持しているいっぽうで、地元のコレクターがその市場の礎を築いている」と述べつつ、今回の調査の意義について次のように語っている。

 「​ニューヨークは2020年に前例のない挑戦に直面し、その多くは美術品取引を支える企業やコレクターに具体的かつ深刻な影響を与えた。この困難な時期において、ニューヨークが直面している現在の課題に対処するためには、ギャラリーが地元に密着すること、そして様々なレベルで市場からのサポートがいかに重要であるかを明らかにした」。