クリスティーズがオークションに新たな歴史を刻もうとしている。2018年上半期に史上最高となる約4424億円の売上高を記録し、波に乗るオークションハウスが見せる次なる展開は、人工知能(AI)が制作した作品の売買だ。
10月23日から始まるセールでオークションにかけられるのは、とある人物の肖像画。黒衣をまとったこの人物の顔は判然せず、キャンバスには塗り残しと思われる部分も確認できる。この、どこか抽象的な作品をつくったのは人間ではない。パリを拠点とするアーティストや研究者らのグループ「Obvious」が開発したAIだ。
この作品を生み出したAIは、「生成モデル」と「識別モデル」というふたつのネットワークが互いに競いながら成長していく人工知能アルゴリズムの一種「敵対的生成ネットワーク(GAN)」を採用。AIに、14世紀からから20世紀までの肖像画1万5000点のデータを与え、生成モデルが作品を制作。その際に識別モデルが生成モデルの作品と人間による作品との差を見分けるというプロセスを繰り返し実行。最終的に識別モデルが生成モデルの作品を人間の作品との差を認識できなくなるまで続けたところ、今回の作品が生まれたという。
Obviousは、ヌードや風景画などでもAIによる作品生成を試したというが、もっとも効果的だったのが肖像画だったとしている。
AI作品をオークションにかけるという歴史あるオークションハウスの決断に、アートマーケットはどのような反応を示すのか?
このセールを発案したクリスティーズのスペシャリスト、リチャード・ロイドは「たしかに人の手で描かれたものではありませんが、この作品は我々が250年のあいだ取り扱ってきた肖像画のひとつなのです」と語る。「AIは将来的にアートマーケットにインパクトを与える技術のうちのひとつにすぎません。今回の作品がどのような役割を演じるのか、とてもワクワクしますね」。