イギリスの現代美術雑誌『ArtReview』が毎年発表している、アート界でもっとも影響力のある100組のランキング「Power 100」。その2021年版が公開された。
今年の1位は、今年のアート・ワールドで大きなブームを引き起こしているNFT(非代替トークン)の取り扱いをするための規格を指す「ERC-721」。ERC-721により、NFTに関する権利移動の記録が可能となる。
『ArtReview』は、「発表から4年が経過したERC-721は、現代アートとミレニアル世代のミーム文化を衝突させ、アート市場を揺るがした。CryptoPunksのようなプロジェクトが2017年にゲーム化されたバーチャルなコレクターズアイテムの流行を始めたことで、ERC-721はデータをバーチャルな財産に変え、アート・ワールドはデジタルカルチャーを希少価値のあるものにできることに気付き始めた」とし、ERC-721について次のように評価している。
「この小さなコードが長期的にどのような混乱を引き起こすかを予測することは困難だ。しかし、2021年には、アートマーケットやアートカルチャーに関する古い前提がすべて、混沌とした創造的な不確実性に投げ込まれているだろう」。
第2位には、アートだけでなく、世界全体を対象とした研究を行っている人類学者アナ・ツィンが続く。3位は2022年に開催される「ドクメンタ15」の芸術監督を務めるインドネシアのアート・コレクティブ「ルアンルパ」で、4位と5位は、それぞれアメリカ人アーティストのシアスター・ゲイツとドイツ人アーティストのアン・イムホフ。
『ArtReview』によると、このランキングは世界中の30人以上のパネリストと協力者の意見をもとに作成されたもの。それぞれの地域で現代アートの発展に貢献している人物を評価するために、3つの基準が用いられている。
それは、対象となる人物が過去12ヶ月間に活躍していること、彼らの活動が現在制作されているアートの種類を変えていること、そして彼らの影響が純粋に地域的なものではなく、グローバルなものであると考えられることだという。
昨年の1位だった反人種差別の運動「Black Lives Matter」が提起した様々な不正義や関連する問題に呼応し、9位には黒人女性の主観性をテーマにした写真やインスタレーション作品を発表しているキャリー・メイ・ウィームス、11位には人種、ジェンダー、暴力の問題をテーマにした作品を発表しているカーラ・ウォーカーがランクインされている。デイヴィッド・ツヴィルナーのディレクター、エボニー・ヘインズ(35位)や、ガゴシアンのディレクター、アントワン・サージェント(68位)は、コマーシャルなアート・ワールドに構造的な変化をもたらす人物としてランクインした。
また、日本からは森美術館館長の片岡真実が唯一ランクインされている。2022年に開催される国際芸術祭「あいち2022」で初めての女性の芸術監督を務める片岡は、国際美術館会議(CIMAM)の会長として、「パンデミック後の美術館の未来を考え、美術館を存続させるための第一線で活躍している」と評価されている。
今年の「Power 100」ランキングはこちらから閲覧可能。