新型コロナウイルスの影響によって美術館の財政的危機が続いているなか、ニューヨークでもっとも長い歴史を持つ博物館・ニューヨーク歴史協会をはじめ、オルブライト=ノックス美術館、シカゴ美術館、サンディエゴ美術館、ニューアーク美術館、ブルックリン美術館などが、所蔵作品を競売にかけている。
アメリカでは、「美術館長協会」(AAMD)が2022年4月までのあいだ、美術館が所蔵品を販売し、その売却益を学芸員の給与や空調設備などを含む「コレクションの保存・管理」に充てることを認めている。この方針を利用し、多くの美術館は重複している作品や展示されたことがほとんどない作品の売却を実施もしくは検討している状況だ。
「Artnet News」によれば、ニューヨーク歴史協会は、同館に所蔵されているアメリカ人画家フレデリック・チャイルド・ハッサムの国旗をモチーフにした2点の作品のうち1点、《Flags on 57th Street, Winter 1918》を5月12日に開催されるサザビーズの印象派・近代美術イブニングセールに出品。予想落札価格は1200万ドル〜1800万ドル(約13億円〜19億円)で、アメリカ人画家による印象派作品のオークション記録を更新することが予想されている。
ブルックリン美術館は昨年秋、ルーカス・クラナッハやロレンツォ・コスタなどルネサンス期の画家から、ギュスターヴ・クールベやカミーユ・コローなど19世紀のフランス近代美術家の作品をクリスティーズのオークションで売却し、3100万ドルの資金を集めた。これらに加え、同館が所蔵するメアリー・カサットの作品17点のうちの1点である《Baby Charles Looking Over His Mother's Shoulder》を5月19日に開催されるサザビーズのアメリカ美術セールに出品。推定価格は100万ドル〜150万ドル(約1億円〜1億6000万円)となる。
ニューアーク美術館は、13万点のコレクションから20点を売却。そのラインナップには、ジョージア・オキーフの《Green Oak Leaves》や、ハッサムの《Woman Cutting Roses in a Garden》などが含まれている。
これらの美術館のほか、コロナ禍の影響で1億5000万ドルの資金不足に直面しているメトロポリタン美術館をはじめとする主要美術館も作品の売却を検討中。しかし、同館のコレクション売却に対しては、強い反発もある。ホイットニー美術館は、3年間にわたる所蔵作品の戦略的見直しを終了後、作品を売却する可能性があるという。
アメリカの美術弁護士であるニコラス・オドネルは、美術館のコレクション売却について次のようにコメントしている。「反対派は以前ほど一枚岩ではなく、特異な存在になっている。プログラムの一部を強調するためであれば作品売却を認める人や、理由を問わず全面的に賛成する人もいる」。