ドイツの建築家マルティン・グロピウスが建築を設計した、ベルリン・ポツダム広場の近くに位置する美術工芸博物館「マルティン・グロピウス・バウ」。ここで、ドイツでは初めてとなる草間彌生の大規模な回顧展が4月23日〜8月15日に開催される。
本展では、70年以上にわたる草間の制作を概観し、とくにこれまで紹介される機会が少なかったヨーロッパやドイツでの活動に焦点を当てる。約3000平米におよぶ展示スペースでは、草間の代表作から直近の絵画作品、ミラールームの新作、そして本展のために制作されたインスタレーションなどが展示される。
展覧会の中心となるのは、1952年〜83年の間に行われた草間の8つの展覧会を再構成した展示。故郷・長野県松本市の公民館で行われた最初の個展(1952)から始まり、男根状のソフトスカルプチャーやミラールームを初めて発表したニューヨークでの個展「One Thousand Boats Show」(1963)や「Floor Show – Phalli’s Field」(1965)、そして83年に東京で行われた、それまでの重要な作品を一堂に展示した個展などを通じ、その制作スタイルがいかに発展していったかを示す。
1960年、草間はルーチョ・フォンタナ、オットー・ピーネ、イヴ・クラインなどのアーティストとともに、ドイツのレバークーゼン市立美術館で開催された大規模なグループ展「モノクローム絵画」に参加。これをきっかけにヨーロッパでの評価が高まり、アムステルダム、ハーグ、ミラノ、ロッテルダム、ストックホルム、トリノ、ヴェネチアなどで展覧会を開催した。今回の回顧展では、草間のこうしたヨーロッパでの活動にも注目し、ドイツ美術史における草間のレガシーについて、新たな視点を考察するという。
同館館長のステファニー・ローゼンタールは、草間の制作について次のように評価している。「草間は、1960年代の美術界において、マルチディシプリナリーな活動によって特異な地位を確立しただけでなく、その政治的な発言は、当時のフェミニズムの言説にも貢献した。女性のエンパワーメントの重要性からセルフスタイリングの意図的な性質に至るまで、今日でも関連性を失っていないある種の問題は、草間の作品のごく初期の段階から明らかにされている」。
また今回の展示構成について、ローゼンタールはこう続ける。「本展では、草間が自らデザインした画期的な展覧会を細部に至るまで再構築することで、そのドイツでの存在感を振り返り、1950年代以降の彼女の芸術の発展をたどる。この回顧展の目的のひとつは、彼女の芸術的なペルソナを取り上げ、アーティスト、批評家、キュレーター、ギャラリーの国際的なネットワークのなかで彼女が果たした重要な役割を強調することだ」。
なお、草間はイギリスのテート・モダンでも2021年から22年にかけ、「ミラールーム」の展示を行うことが明らかになっている。初公開となる映像や写真に合わせて、同シリーズが世界的に人気を博した歴史的背景を探るという。