メディア・アーティストの落合陽一を演出に迎え、「テクノロジーによってオーケストラを再構築する」というテーマのもと、2018年から公演を開催してきたプロジェクト「落合陽一✕日本フィルハーモニー交響楽団」。2019年にカンヌ広告賞を受賞した、聴覚障害のある人も音楽を感じて楽しめる「耳で聴かない音楽会」(2019)をはじめ、テクノロジーを用いた身体的体験として音楽会をアップデートしてきた。
10月13日に開催される今年の公演は、新型コロナウイルスの影響を受けて、当初予定されていた企画から内容を変更。コロナの時代における新たなオーケストラ様式を模索し、オンライン鑑賞の新たな魅力を探る音楽会となる
音楽会の公演名にある「__する音楽会」には、当初計画した音楽会が白紙になった様子や、そこから新たなかたちの音楽会を模索するという覚悟が込められた。指揮は海老原光、ビジュアル演出(映像の奏者)はWOWの近藤樹がつとめる。
演奏会では、コロナ禍でいかにライブでのコンサートを楽しむのかを念頭に、オーケストラの新たなコミュニケーション手法の確立や、8Kカメラとハイレゾによる撮影・収録、会場とオンラインで異なるコンサート体験の提供を目指す。
とくにオンライン鑑賞は、たんなる劇場鑑賞の代替手段ではなく、オンラインにしかできない鑑賞体験を模索。詳細は当日の公演で発表されることになるが、実際の場における音楽会と、オンライン上で生み出された音楽会のどちらを選んでも、まったく別の鑑賞体験が得られるようになるという。
演出と監修を務める落合陽一は、公演について以下のように語った。「コンピューターと日々向き合う僕にとって、オーケストラというのは人間が集まり、人間が意地を見せる場だと思っている。そうしたオーケストラの本質そのものと向かい合って、どうやったらオーケストラを続けていけるのかを模索する挑戦になる。おそらく、バッハやモーツァルトが現代に生きていたら、きっと映像用の楽譜をつくるはず。楽譜を解釈して音をつくるのが指揮者なら、映像の演奏者や指揮者がいてもいいはずという発想で試行錯誤を重ねている」。
日本フィルハーモニー交響楽団は、新型コロナウイルスの影響により、年間約150回ほどの活動のうちの約半数ほどが中止となった。今年度は債務超過が見込まれ、存続の危機に瀕している。寄付を募るとともに、これからの時代においてオーケストラがいかなるかたちで存続し、メディア・アートとともに新たな可能性をつくり出せるのか、注目が集まる公演となる。