「日本における現代美術の持続的発展を目指し、現代美術関係者の意見を幅広く集約し、日本人および日本で活動する作家の国際的な評価を高めていくための取り組みなどを推進する」。これが、文化庁が2018年度よりスタートさせた「文化庁アートプラットフォーム事業」だ。9月11日には同事業の記者向け勉強会とシンポジウム「グローバル化する美術界と『日本』:現状と未来への展望」が国立新美術館で開催された。
事業の骨子にあるのは、国際的に見て脆弱とされる日本現代美術の国際発信強化と、ネットワーク形成や文献翻訳などを含むアート・プラットフォームの形成。それぞれ2020年度の概算要求として、1億1700万円、1億800万円が計上されている(合計概算要求額は2億2500万円、文化庁概算要求の総額は約1275億円)。
文化庁が現代美術の振興施策に対して積極的に乗り出したのは、2014年度のこと。同年度の予算において初めて現代美術を対象とする文化庁予算が計上。その後17年3月には、内閣官房文化経済戦略特別チームが設置され、18年度予算には「アート市場活性化事業」が予算計上された。
なぜ文化庁は、現代美術の施策に取り組もうとしているのか? 文化庁が問題として挙げるのは、「日本における世界的なアーティストを育てるためのエコシステムが存在していない」という点だ。その論点として、「日本の作家・作品の国際的な評価を高めるための活動が弱いこと」「近現代美術に係るインフラの未整備」「国内のアート市場・産業の規模が小さいこと」の3つを掲げ、今回のアートプラットフォーム事業ではそれぞれに対応する対策を行っていくとしている。
例えば、「国際的な評価」については、「有力国際展・アートフェアでの発信」「海外から注目される質の高い展覧会の企画・実施」など、「インフラの未整備」については「文献等の翻訳」「海外とのネットワーク構築」「国際広報・情報発信(web)の強化」「データベース・アーカイブの整備」などを行うという。
アートプラットフォーム事業では、実施体制としてステアリングコミッティを組織。森美術館副館長・片岡真実が座長を務める日本現代アート委員会が中心的な役割を担っていく。片岡はこの事業の背景として「アーティストの数は世界で激増しており、相対的に日本のアーティストの存在感は希薄化してしまう」と、アート界の現状について説明。「どの国でも自国の現代美術のPR活動を行っている。国策として戦略を行わないと、個々人のアーティストでは対応不可能」だと危機感を募らせた。
文化庁が描く未来図は意欲的なものだと言えるだろう。しかし問題は、事業の継続性の担保だ。
同事業は予算上5ヶ年計画であり、それまでに上記にあるような対策をすべて「完了」させることは容易ではない。またウェブサイトなどは時限制のあるものではなく、継続して運用していく必要がある。副座長を務める上智大学教授・林道郎もこれについては「ずっと続けていけるような体制に持っていきたい」としている。
また、事業主体の文化庁は行政組織であり、長官や担当者の交代によって事業そのものの方向性が変わる可能性も否定できない。文化庁側もこれに対しては「なんからの組織形成の必要性は感じている」と、継続するための組織構築の必要性を滲ませた。
この5年間で、政府内および政治家に対し、現代美術支援の重要性をいかにアピールできるかが焦点となる。