2019.3.25

Reborn-Art Festival 2019の参加作家が一部明らかに。マルチキュレーションのもと草間彌生、吉増剛造、ザイ・クーニンらが参加

2019年に2回目の開催が予定されている「Reborn-Art Festival 2019」。その記者会見が代々木で行われ、参加作家の一部が明らかにされた。

記者会見に登壇したキュレーターら。前列左から3人目は実行委員長の小林武史
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 2017年に宮城県石巻地域で開催され、大きなインパクトを残したアートフェスティバル「Reborn-Art Festival」。その2回目となる8月の開催を前に、東京・代々木で記者会見が開催された。

 前回はワタリウム美術館の和多利恵津子・浩一がメインキュレーターを務めたが、2019年はエリアごとのマルチキュレーター制を採用。和田利恵津子・浩一(網地島エリア)に加え、島袋道浩(鮎川エリア)、名和晃平(荻浜エリア)、豊嶋秀樹(小積エリア)、有馬かおる(市街地エリア)、中沢新一(市街地エリア)、小林武史(桃浦エリア)の計8名がキュレーションを担当する。

 今回のテーマは「いのちのてざわり」。小林はこのテーマについて、元々は別の案が存在していたことを明かす。「もともとはネガポジというテーマでした。ただ島袋に相談したところ、そのテーマは記号的すぎると指摘された。その代わりに提案してくれたのが、(僕もよく使っていた)『いのちのてざわり』でした」。

小林武史

 小林が「生きる実感を伝えたいとき」に使っていたという言葉、「いのちのてざわり」。小林はこう続ける。「基本的に人間はアナログ的ないきもの。ITやAIが社会に入り込み、経済的有利のために人間が不在になってきている。でも僕ら人間は、『いのちのてざわり』なしに生きている実感や喜びは得られない。Reborn-Art Festivalが行われる地域には豊かな時間と空間があり、そこに現代美術が展示されることで、様々なケミストリーを起こしていく。そしてそこに『いのちのてざわり』が表れていくのだと思います」。

 ではそんな「いのちのてざわり」を担う、それぞれのキュレーションのテーマと参加作家を見ていこう。

 まず前回、アーティストとして《起こす》を発表した島袋道浩は「目をこらす 耳をすます」をテーマに設定。復興工事が進むなか、「鮎川に滞在して、じっと目を凝らさないと見えないものや、じっと耳を澄まさないと聞こえないものを見つけてくることができるアーティストたちに来てもらうことにしました」と語る。

 そんな島袋のもとに集まるのは、詩人・吉増剛造や音楽家・青葉市子など。島袋は作家たちに「いままでやったことないことをやってほしいとリクエストした」といい、吉増は会期中ずっと現地に滞在することを計画しているという。

島袋道浩が前回鮎川エリアで発表した《起こす》(2017)

 前回、巨大な鹿の作品《White Deer(Oshika)》を荻浜に設置した名和晃平は、「プライマルエナジー 原始の力」をテーマに同エリアをキュレーション。「太古から存在する普遍的なイメージが、荒涼とした風景に溶け込み、原始的なエネルギーに満ちた場になるでしょう」としている。参加作家は名和のほか、80年代よりボール紙や発泡スチロールなどを用いて作品を制作する今村源、ペインターの村瀬恭子など。

荻浜にある名和晃平の《White Deer(Oshika)》(2017)

 graf設立メンバーである豊嶋秀樹のテーマは「鹿に導かれ、私たちを見るとき」。小積エリアにある鹿肉処理場を取り巻くように、アーティストたちによる小さな集落を出現させるという。参加作家は、山伏の坂本大三郎とコンテンポラリーダンサー・大久保裕子のユニット、写真家の津田直、そして鹿の角や骨など生命の断片を素材に立体作品を手がける堀場由美子など。

 市街地エリアを担当する有馬かおるは、「街のマンガロードとアートロード」をテーマにする。石巻には石ノ森萬画館とマンガロードがあり、そこにアートロードを加えるという構想。石巻の作家を中心に集め、新たな芽を育てる。また前回「石巻のキワマリ荘」をオープンさせたように、今回も新たなアートスペース「ART DRUG CENTER」を誕生させるという。

 前回メインキュレーターを務めた和多利恵津子・浩一は、「ネクスト・ユートピア」をテーマに今回から加わった会場・網地島を舞台にキュレーション。人口わずか約400名の小さな島で、アートによる21世紀のユートピア(楽園)を生み出すことを目指す。参加作家は浅野忠信、伊藤存+青木陵子、小宮麻吏奈、そしてロイス・ワインバーガー。

左から、和多利恵津子、和多利浩一

 いっぽう人類学者・中沢新一は「海へのアート=リチュアル(「儀式」の意味)」として、海民の子孫であるシンガポールのアーティスト、ザイ・クーニンに参加を呼びかけた。「ザイ・クーニンは黒潮をコンセプトに、日本でも個展を行った経験があります。黒潮はシンガポールから遠からぬところに発生地点がある。そして石巻は黒潮と親潮が出会う場所。石巻を、黒潮によって海に向かって開かれていく世界として取り戻したい」と語った。

中沢新一

 また小林武史は、「リビングスペース」をテーマに設定。現在進行形の「リビングスペース=生きる場」とは何かを探るアートプロジェクトとして、作品展示とともに会期中唯一となるオーバーナイトイベント「夜側のできごと」も行う。現時点での参加作家は、草間彌生、増田セバスチャン、パルコキノシタなど。

 なお今回も食に関するプログラムは行われ、「the Blind Donkey」(神田)のジェローム・ワーグと原川慎一郎が「石巻フードアドベンチャー」を掲げ、ツアー体験などを提供する。

 また音楽のジャンルでは、8月3日と4日に石巻市総合体育館でオープニングを飾るイベントが開催されるなど、アートだけではないReborn-Art Festivalの特色を継続させる。